■Rewriting of fate 【Prologue】

 ── バヂバヂバヂッ!
 天から降り注ぐ黒き雷が猛り狂う異形へと突き刺さり、あるいは絡め取り、その醜い姿は一瞬にして跡形もなく消滅した。
「── お見事」
 パンパン、と眼帯で片目を隠した隻眼の男が手を叩く音が辺りにこだまする。
「……フン、誉められたところで、完全にお前を信用する材料にはならないぜ?」
「もちろん、承知しておりますよ」
 他意はなく微笑んで見せると、常世の国の若き皇子は面白くもなさそうな顔でしゅるりと剣を鞘に収めた。
「さて、異世界への分かれ道まであとわずかです── 参りましょうか」
 先を促して、皇子の前を歩きながら隻眼の男── 柊は考える。
 こんな閉塞した場所のどこから、あの黒き雷は落ちてきたのだろうか、と。
 彼らが歩いているのは闇深い洞窟。
 手元の小さな明かりがちろちろと揺れるたび、ごつごつした岩壁に映る影が不気味に揺れた。
 岩壁はそのまま天井へと続き、不格好なアーチを形作っている。
 そして天井が崩れ落ちてきてもおかしくないほどの威力を炸裂させたというのに、岩肌には僅かな傷も残っていない。
 だが、そんな不可思議な現象も『ここは黄泉比良坂だから』という一言で片付けて良いように思えてくるのがやけに可笑しかった。
 黄泉比良坂── 常世の国と豊葦原を、そして死者の辿り着く国・黄泉とを結ぶ洞窟である。
 そしてさらに、ここではない異世界へと誘う洞窟でもあった。

 うねうねと続く一本道の洞窟から横へ逸れる脇道が出現したところで柊は足を止めた。
「── ここか?」
 訝しげに聞いてくる皇子へ頷いてみせる。
「龍神の神子── 中つ国の二ノ姫は、黒き日の神に蝕まれた常世の国に射す一筋の光明となりましょう」
「亡国の姫に何ができるかは知らんが、打つ手がない以上試してみるしかない……か」
「ええ……それから、くれぐれも──」
「わかっている、姫に逢ったらすぐに戻らねば道が閉ざされる、だろう?」
「はい── 今宵は望月、次に道が開かれるのは闇濃き朔月の夜にございます。ぜひともお急ぎを」
「ああ」
 柊が恭しく頭を下げている間に、皇子は躊躇いもなく脇道へと入っていく。
 黒づくめのいでたちの皇子の姿は、彼の纏うマントがひらめくのを最後にすぐに闇へ飲まれていった。
 その闇を残された片目で見つめながら、柊はふぅ、と息を吐く。
 姫がこの世界へ戻ることによって、止まってしまったこの世界の時間が動き出す。
 だが自ら異世界へ赴いても些末なことしか変えられず、何度も臍を噛んできた。
 ならばその原初を変えたなら──
「── さて、これで未来はどう変わるか…」
 膨大な数の既定伝承(アカシャ)とは異なる未来を夢に描きつつ、柊は元来た道を戻っていった。

〜つづく〜

【プチあとがき】
 さて、新シリーズ開始です。
 ブログなんかでちょくちょく書いてた『もしも』の話。
 題して、「もしも序章で現代へ行くのがアシュヴィンだったら」(笑)
 千尋が柊に会うきっかけになったのが黒雷の音。
 現代へ聞こえるくらいのところにアシュがいたんなら、いっそ行っちゃえよ、みたいな(笑)
 柊は相当期待しているようですが、アシュ千である以上、ご期待には沿えません(笑)
 余計な設定はいろいろ考えてあるんですが、プロットは作ってなかったり。
 そんなわけで今回もノープラン(笑)
 さあ、どうなることやら。

【2009/01/31 up】