■The tusk of the vampire【パターンB】 東金

「あ゛ー……」
 呻いた彼女はつまらなそうにぽりぽりと指先で頬を掻いている。
「……俺様にこんなことをさせておいて、その反応はなんだ?」
「いえ、似合ってないとかじゃなくてぇ── むしろ似合いすぎてて普通というか、想像を裏切らなすぎて面白味に欠けるというか……」
 小首を傾げた彼女は人差し指を顎に当て、むぅ、と考え込んでしまった。
 東金は自分のこめかみにピキッと怒りマークが浮かんだのを感じた。
「お前な……マジで血ぃ吸うぞ」
 低音での恨み節。 それを聞いた彼女はぱっと顔を輝かせた。
「それっ! 今の関西弁で言ってみてくださいっ!」
「はあっ !? ………『血ぃ吸うたろか』?」
「ジェスチャー込みで!」
「……………………………んな芸人のネタができるか、アホーーーっ!」
 東金は口から抜き取った牙を力任せに床に投げつける。
「わーすごい! 本場のツッコミ!」
 合わせた両手の指先だけで拍手している彼女。
 そんな彼女を放っておいて、東金はヴァイオリンケースを担いでスタジオを出る。
 待ってくださいよぉ、と追いかけてきた彼女がぶつかるようにして腕を絡めてきた。
 ついさっきまで彼女を手に入れたと思っていたが、実は彼女の手の上で踊らされているのかもしれない。
 さっきの『勝利(予定)のキス』は謹んで返却すべきではあるまいか?
 そんなことを考えつつ、東金が漏らした大きな溜息が夏の夜空に吸い込まれていった。

〜おしまい〜

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【プチあとがき】
 パターンB:立場逆転?展開。
 お笑い大好き、アホの子かなで(笑)

【2010/03/15 up/2010/03/26 拍手お礼より移動】