■The tusk of the vampire【パターンA】
「うわぁ……」
小さく声を上げた彼女は、赤い顔をさらに赤く染め上げた。
思った通りの反応に、東金はしてやったりとほくそ笑む。
後退ろうとする華奢な身体を逃がさないようしっかりと抱き寄せて、細くて白い首筋に顔を近づけていった。
もちろん白い肌に牙を立てるつもりは毛頭ない。
立てたとしても、柔らかい素材でできているから傷をつけることもないだろうし。
彼女の大胆さに便乗して、細い首筋に唇を寄せてみる。
我知らず息を詰めていたらしく、息苦しさに気づいて大きな呼吸をした。
意図せずかかってしまった吐息に、腕の中の彼女がふるりと震えて身を固くする。
彼女が大胆な行動に出たのはついさっきのことだというのに、今のこの初心な反応は一体なんなんだ?
あまり苛めるのも可哀想になってきて、笑い出しそうになるのを堪えながら、湧き上がってくるいとおしさに任せて優しく抱き締めてやることにした。
そして実行に移そうとしたその時──
プルルルルル
プルルルルル──
無情に鳴り響くコール音。
「チッ……気が利かねぇな」
時間終了はとっくの昔に告げられていたというのに、それを半ば無視している自分たち。
そんなことは棚に上げて毒づきながら、牙をちゃっかり自分のポケットにしまい込む。
「── 続きはここを出てからだな……って、おい、小日向?」
湯気が立ちそうなほどに真っ赤な頬を両手で押さえ、呆然と立ち尽くしている彼女。
「おいおい……この程度のことで固まるなよ」
ヴァイオリンケースを肩にかけ、彼女の荷物を掴むと、空いた手で頬から引きはがした細い手をしっかり握り締める。
外に出ると、夏の夜風が火照った頬を少し冷ましてくれた。
── 明日はいい一日になる。
燃えるように熱くて少し汗ばんだ小さな感触を手の中に感じながら、東金は意気揚々と寮への道を歩いていった。
〜おしまい〜
【プチあとがき】
パターンA:ありがち展開。
もしかしてR指定? だいじょぶだよね?
神南組と榊先輩の三人で破廉恥対決するといい(笑)
【2010/03/15 up/2010/03/26 拍手お礼より移動】