■拍手お礼連載パラレル劇場『社長と秘書』【2.運命の出会い?】
「── これはまた、地味な女だな」
その男はかなでを見るなり、そう言って鼻で笑った。
* * * * *
その日の朝、ファイルを届けに行ったはずの秘書課(の奥の支社長室)で『社長秘書』を命じられた小日向かなで。
「あ、あのっ……、ど、どうして私が……?」
衝撃の辞令を口にした支社長・土岐はニコニコと、いやニヤニヤと笑いながら、ぽんぽんと叩いたかなでの肩にそのまま手を置いた。
「ふふっ、そないに大した意味はないんよ」
「え゛」
土岐のほっそりとした手が乗ったかなでの肩が思わずカクンと下がる。
お約束とも言える反応にくつくつと笑った土岐は、小柄なかなでの目線に合わせるように少し腰を折り、彼女の顔を覗き込んだ。
「せやなぁ、強いて言えば……あんたは毎日真面目に仕事しとる」
「は……?
そ、それは当然のことで……」
「それにあんたは千秋に色目使いそうにないし」
「は、はぁっ !?」
「まあ、あんたやったら、もしも色目使うたとしても効き目あらへんな」
からかうように笑う土岐。
普段ぽやんとしていると評されることの多いかなでではあったが、彼の言動にはさすがに頭に来た。
「あ、あのっ!
勤務態度を評価してくださったことは感謝します!
けどっ、当社は『社内恋愛禁止』なんでしょう !?
そうじゃなくても勤務中でもそうじゃない時でも私は色目なんて使いませんっ!
それよりそもそも『千秋』さんって一体どなたなんです !?」
相手が支社長であり副社長でもあることも忘れ、かなでは怒りに任せて捲し立てた。
彼女の見た目からは想像できない剣幕に余程驚いたのか、ぽかんとしてぱちぱちと瞬いた土岐が、ぷっ、と吹き出した。
何を思ったか、かなでの肩に置きっ放しだった手を頭に移動させてぐしぐしと撫でる。
撫でられる理由が解からないかなでは思わず首を竦ませた。
「……あの」
「悪いこと言うてしもたな。
今俺が言うたこと、忘れてくれへん?」
「そ……それは構いませんけど……」
「ありがとう」
「い……いえ」
「せやけど自分とこの社長の名前くらい覚えといてな」
「え……?」
「── 東金千秋。
お前が勤める会社の社長の名だ」
背後から聞こえた声に振り返ると、険しい顔つきの男が腹立たしげに腕を組んで立っていた。
* * * * *
「……なんや千秋、こっちに来るんは明日やなかったん?」
「早く片が付いたんでな。
予定を繰り上げた」
「それならそうと、連絡くらい──」
土岐のぼやきを遮るようにして部屋を横切った東金は、支社長のデスクの上にドサリと荷物を置き、中から書類を取り出した。
「で、それが俺の秘書か?」
「あ、ああ。そうや」
東金は自分の失言にすっかり委縮してしまっているかなでの前に立つと、頭の天辺から足の先までをざっと眺め、
「── これはまた、地味な女だな」
そう言い放ったのだった。
当然ながら、そんなことを言われれば頭に来ないはずもない。
「── !」
「おい、地味子。
俺に茶だ。
今日はダージリンにするか」
本当であれば『かしこまりました』と頭を下げるべきところではあるが、完全に頭に来ているかなではふいっと顔を背けるようにして支社長室を出て、足音高く給湯室へと向かうのだった。
【プチあとがき】
す、すみません、一旦切らせて(泣)
本当はこの倍のボリュームになるまで書く予定だったのにっ!
【2010/09/30 up/2010/10/19 拍手お礼より移動】