■来し方と行く末【パターンB】
不思議そうに小首を傾げた彼女が、ふわりと微笑んだ。
「私の顔、何かついてる?」
「へっ?」
「ほら、じーっと見てるから、どうしたのかなと思って」
俺と日野との距離、10センチ。
……この状況でそう来るか。
張り詰めたような緊張感が一気に霧散する。
「いや、なんでもない」
さっきまで超強力磁石だった手はあっさり外れ、俺の頭をガシガシと掻き毟った。ベンチの背凭れにぐったりと寄りかかり、気取られないようこっそりと溜息を吐く。
「……お前、ニブすぎ」
「え、なに?」
うっかり呟いてしまった本心。聞き返されてギクリとする。
「なんでもねぇよ」
「もう、さっきからなんでもないなんでもないって──」
「さ、帰ろうぜ」
不満そうな日野のセリフを遮って、俺はベンチから立ち上がった。
「そだね、寒いし、お腹減ったし」
あっさり機嫌を直した彼女の言葉に、俺はぷっと吹き出した。
「やっぱお前は食い気か」
「悪い?」
「いや──」
隣に並んだ彼女の頭にポン、と手を乗せる。
「今日はしっかり食って、たっぷり休めよ。んで、明日頑張ろうな」
「うん♪」
彼女を家に送り届け、家路につきながらしばし反省する。
鈍い彼女には態度よりまず言葉。
ちゃんと想いを言葉にして、その気になってもらわないと先に進めない。
他のライバルたちのことを考えれば悠長なことは言っていられないが、とりあえずコンミスの件が一段落してからだな。
そんなことを考えている俺は、翌日のバレンタインデーというイベントに乗じた彼女から先に言葉をもらってしまうなんてことは知る由もなかったのだった。
〜おしまい〜
【プチあとがき】
パターンBは『激ニブな香穂子さん』でした。
でも結局くっつくのだ(笑)
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【2008/06/08 up】