■小ネタツイートLog【その3】

 現在ツイッター(@yuna_fantasia)にて小ネタツイート垂れ流し中。
 新ネタは上記アカウントにてご覧ください。

【#21 ダリ梓】
 ダリウスは面白くなかった。
「ルードくん、これ刻めばいい?」
「はい、できるだけ細かくお願いします。 あ、梓さん、そこのボウルを取ってもらえますか」
「これ?  はい、どうぞ」
 なかなかの連携を見せつつ厨房に並んで立つ二人のほうが、よほど夫婦のようではないか。
 後ろからそれを眺めている本当の夫・ダリウスにとって面白いわけがない。
「── では梓さん、時々かき混ぜておいてください。 くれぐれも焦がさないように」
「うん、わかった」
 ルードは鍋を梓に任せ、他の仕事を片づけるため厨房を出て行った。
「おいしくなぁれ♪  おいしくなぁれ♪」
 楽しげに口ずさみながら鍋の中身を混ぜている姿があまりに可愛らしくて、胸の中に渦巻いていた
どす黒い何かがふっと霧散する。
「ちょっと味見しちゃお」
 小皿に少し取って、そっと口をつける。
「── うん、おいしい!  ねえ、ダリウスも味見し── っ!?」
 最後まで言わせずに、背後から抱きしめた。
「……いいのかい?」
「う……うん」
 了承得て、お玉と小皿を彼女の手から奪い取り、すかさず彼女に口付けて、彼女の唇に残った味を
確かめてみる。
「っ!?」
「── うん、いい味だ。 梓、料理の腕を上げたね」
 にっこり笑って誉めると、彼女の顔は真っ赤に茹で上がった。

【#22 ダリ梓・虎梓・村梓で『恋文の日』】
「今日は5月23日……あ、確か『恋文の日』だったよね」
 梓にとって恋文── ラブレターとは、好きな人に交際を申し込むツール、という認識である。
 すでに特定の相手がいる彼女には必要のないものだ。
 だが、愛情表現や感謝を含めて『口にするには少し照れくさいけれど伝えたい想い』を文字にしてみるのも
いいのではないだろうか。
「── 書いてみようかな」

【ダリ梓の場合】
「── 梓」
 満面の笑みのダリウスは、名前を呼ぶなり梓を抱き締める。
「あの……」
「心のこもった手紙、本当に嬉しいよ」
「……よかった」
 後日、ダリウスの書斎で梓が見たのは──
「ちょ、ダリウスっ!  これっ…!」
 まるで有名画家の絵画のような立派な額に入れられた、あの手紙。
「ふふっ、毎日眺めているよ」
「やめてーっ!  引き出しに仕舞ってーっ!」

【虎梓の場合】
「あ、虎」
 珍しく緩んだ顔の彼に声をかけると、急に不機嫌そうな表情を作った。
「オ…オレに寄越すんなら、食いもんにしな」
「え……せっかく心をこめて書いたのにな」
「くっ、食えねえもんより、食えるもんにしろ!」
 ちょっと耳の辺りを赤くして、『お前を食わせろ』とか言う余裕もなく喜んでくれているらしい。
「ふふっ、わかった」
 次はお菓子に文字を書いて渡したら、もっと喜んでくれるかな?

【村梓の場合】
「あー、あんたの気持ちはよくわかった」
「なんだか今さらな感じですけど……」
 結構熱烈な言葉を書いた自覚もあって、恥ずかしくなって俯いた。
「いや、改めて文字で見ると、愛されてる実感が湧いて嬉しいもんだよ」
 頭をわしわしと撫でられた。
「それで、だ」
 ぽん、と食卓に置かれた一枚の紙。
「あ」
「ここは、こうしたほうが──」
 渡した手紙に赤い線やら文字(らしきもの)やらが書き加えられている。
「……添削しないでくださいっ!」
「校正と言ってくれんかね」

【#23 虎梓】
「── おら、出かけるぞ」
 虎の部屋に来て、まだそう時間も経っていないというのに、彼は外出の準備を始めた。
「え、でも、昨日は遅くまで仕事だったでしょ。 まったりしないの?」
「あ?  行かねえのか?」
「行ってもいいけど……前はあんなに昼寝が好きだったのに」
「お前が添い寝するならいいぜ。 ……ま、当然添い寝だけじゃ済まねえけど」
「い、いえ、出かけさせていただきますっ!」
 いそいそと出かける準備を始めると、ふっ、と笑う声と呟きが聞こえた。
「── 昼寝より好きなもんができちまったんだから、しゃーねえだろ」

【#24 村梓】
「ちと、面倒ごとを聞いてくれんかね」
 帰ってからずっと難しい顔をしていた村雨がようやく口を開き、出てきた言葉がそれだった。
 話を聞いてみると、党の人たちから自宅に招いてほしいと懇願されているらしい。
「基本的に悪い奴らじゃないんだが……物見高さには呆れる」
 みな例の小説を読んでいるだろうし、その二人がどんな新婚生活を送っているのか興味津々というところか。
「えと……お茶だけっていうわけにもいきませんよね……あっ、何人くらい来られるんですか?」
「そうさな……10人ほどにはなるだろう」
「10人……」
 そんな大人数の食事、梓はこれまで作ったことがない。
 元の世界のように冷凍庫でもあれば、下ごしらえして保存しておく手もあるのだが。
 それでも二人分の食事作りに慣れた腕で、大人数分を上手く作れる自信はなかった。
「…………」
「…………」
「…………ん、どうにか断ろう」
「いえ……なんとかなるかもしれません」

 * * *

 当日。
 食後のデザートに、井戸水で冷たく冷やしておいたスイカを切る。
 村雨も運ぶ係を買って出て、一緒に台所に戻って来ていた。
 庭からは賑やかで楽しげな声が聞こえてくる。
「── にしても、バーベキューとは考えたな」
「ふふっ、切って焼くだけですから、失敗もないですしね」
 梓の提案を受けて、村雨が煉瓦を積んで作ったコンロに、金物屋に特注した大きな焼き網を乗せたのである。
「あいつらには珍しかったろうな。 焼肉のたれもうまかった」
「よかった……昔、おばあちゃんに教えてもらったんです」
「そうか……なんにせよ、助かった」
「私も楽しかっ──」
 村雨の手が梓の腰に回され、包丁を持つ梓の手が止まり、二人の顔が近づいて──
「ひゅ〜♪  お熱いこって!」
「っ!?  お、お前らっ!」
 はやし立てた若者たちが一喝されて、蜘蛛の子を散らすように逃げて行く。
「……やれやれ」
 溜息混じりに吐き出して、切ったスイカを乗せた皿を運んでいく村雨。
「………ふふっ」
 本当に楽しいひとときになってよかった、と梓は残りのスイカを切り始めた。

【#25 虎梓】
「ちょっ、あのっ、と、虎っ!」
「ああ?」
 壁に手をつき間近で見下ろしてくる梓の顔を見上げつつ。
「あ、あのねっ、こ、こういうことじゃなくてっ!」
「んじゃ、何がしてえんだ?」
 巷で流行っているという『壁ドン』。
 普通にしたのでは面白くないから逆で、と梓が踏み台を持参し、壁際に虎を立たせたのはついさっきのこと。
 ニヤリと笑って、梓の腰を抱き締める腕にぐっと力を込める。
「えっと、だ、だからねっ」
「ガタガタうるせえんだよ」
 ちょうど目の前にある彼女の胸に、ぼふっと顔を埋めた。

【#26 村梓】
 それは活動写真を見た後のことだった。
 元の世界の映画との違いを話しているうち、そういう流れになってしまった。
「やっぱり村雨さんはイケメンだと思います」
「…………」
「村雨さんはイケメンです」
「あー……聞こえてるから繰り返さんでいい」
「だったら1回目で返事してください」
「……ん、すまん」
「でももし村雨さんがイケメンじゃなくても、私は村雨さんのことを好きになったと思います」
「…………」
「村雨さんのことが好きです」
「……だから、繰り返さ──」
「何度でも繰り返します。村雨さんのことが好きです」
「……っ」
 年甲斐もなく赤らんでいるであろう顔を隠すように、ハンチングをぐいっと引き下げる。
 柔らかい雰囲気を纏っているくせに、時に見せる頑固なまでの大胆さ。
 余計な遠慮を覚えた心にストレートに刺さる素直で素朴な言葉。
 これにはいつも諸手を上げて白旗を振るしかないのだ。
「……若いねぇ」
「いつも『年寄り扱いするな』って言うくせに、年寄りじみた発言しないでください」
「……ん、すまん」
 惚れた弱みか、彼女にはつくづく敵わない。

【#27 梓ちゃんが眠ってるお相手に《でこチュー》してみた】

【ダリ梓の場合】
 ダリウスが珍しくソファで眠っていた。
 梓はそっと近づいて、顔を覗き込む。
 見れば見るほど、本当に整った綺麗な顔。
 画家や彫刻家が彼を見つけたら、ぜひモデルになってくれと頼んでくるに違いない。
 思わず溜息が出た。
 憎らしいほどに美しい顔を見つめているうち、悪戯心が湧いてきた。
 ほんの一瞬、彼の額に口付ける。
 何の反応もないことで、ふと不安がよぎった。
 もし、またこのまま彼が目覚めなかったら──
「……ダリウス?」
 名前を呼ぶ声が少し震えてしまった。
 と、ダリウスの口元に微笑が浮かんだ。
「── キスは唇にしてくれないと、目覚められないよ」
 起こしてしまったのか、狸寝入りだったのかはわからないけれど。
 呆れながらも少し安堵して、彼の希望通りに唇にキスをした。

【虎梓の場合】
 台所を片付けて戻ってきたら、虎は床に大の字になって眠っていた。
「……『眠い』と『腹減った』が口癖だものね」
 梓の手料理で満腹になったところで、眠気に負けてしまったのだろう。
 起こさないよう、そっと静かに傍に座る。
「ふふっ、寝てる時はトラじゃなくて子猫みたい……でもないか」
 若干失礼なことを呟きながら、寝顔を覗き込んでみた。
 慣れない世界で仕事をするのは、相当な苦労があるに違いない。
「……お疲れさま」
 彼の額にそっと唇を押し当てる。
「── っ!?」
 次の瞬間、天地がぐるりと反転して、不敵な笑みを浮かべる彼の顔が真上にあった。
「な、なにっ!?」
「ハッ、スイッチ入れちまったみてえだな、梓ちゃんよぉ」
「!」
 梓は目覚めた猛獣に捕食されることになってしまったらしい。

【村梓の場合】
 アルコールの匂いを纏い、ふらふらで帰ってくるなり座り込んでしまった村雨。
 戸口の柱に凭れさせ、水をくんで戻ってきたら、そのままの状態で寝息を立てていた。
「もう……風邪ひいちゃいますよ」
 テーブルにコップを置き、毛布を取ってくる。
 とりあえず横になってもらおうと彼の肩に手をかけた。
 するとぐらりと傾いた彼の身体は、そのまま梓の方へ倒れてきた。
 彼の頭を胸元で受け止めながら、重さに耐え切れず二人して畳の上にどさりと倒れ込む。
「ご、ごめんなさいっ!  大丈夫ですか!?」
 酒の力で眠らされた村雨は、目覚めた様子はない。
「……飲み過ぎは身体に良くありませんよ?」
 党首に担ぎ上げられた彼にとって、党員たちの酒の席に付き合うのも仕事のひとつなのだろうけれど。
 横になったまま、ちょうど目の前に見えている彼の額にそっと唇を寄せた。
「……あ」
 いつもと違う香り。
 煙草と珈琲ではなく、煙草と酒が混じった、別方向の大人の香りというか。
 と、ぴくりと彼の眉が動いた。
 気が付けば、いつの間にか彼の腕が腰に回されている。
「あ、もしかして……村雨さん、ダウトです」
「……バレたか」
 村雨は悪戯っぽく片目を開けた。
 それほど酔ってはいなくて、おそらく狸寝入りだったに違いない。
「梓の荒い鼻息がくすぐったくてな」
「あ、ひどい!  せめて『吐息』って言ってください」
「吐息は口から吐くもんであって、鼻からの息は吐息とは言わんよ」
「……わかりましたから、起きてるならちゃんとお布団で寝てください」
「ん……」
 村雨は梓の胸元に顔を埋めると、彼女の身体をぎゅっと抱きしめ、そのまま再び寝息を立て始めた。
「あれ……?  やっぱり酔ってる…?」
 少し身じろぎしてみるも、彼の腕の力は緩まない。
 梓は手探りで毛布を引き寄せ、どうにか二人の身体の上にかけると、胸元の彼の頭をそっと撫でた。
「── おやすみなさい、村雨さん」

【#28 虎梓】
 街を歩いていると、急に虎が足を止めた。
「虎、どうしたの?」
 彼は答えることもなく、辺りの気配を窺っている。
 というよりも、鼻を鳴らして辺りの空気から何かを感じ取ろうとしているように見えた。
「ねえ、虎── あっ!」
 彼の奇妙な行動の理由が、一瞬にして梓にも理解できた。
「私……多分、虎と同じ事考えてると思う」
 どこからか漂ってくる、この芳醇なだしの香り──
「今日のお昼はうどんだね!」
「今日の昼メシはうどんだな!」
 二人の声が見事にハモった。

【#29 村梓】
 銀座に店を構える、とある仕立屋。
 党首ともなれば政府要人との会合もあるから、と背広を誂えた。
 仕上がったと連絡があって、今は試着中である。
「── わぁ」
 初めて目にする村雨の洋装姿に、梓は息を飲んだ。
「……そんなにまじまじ見なさんな」
「でも……す……」
「す?」
「── 素敵ですっ!  かっこいいですっ!」
「っ……」
 瞳の中に星が見えそうなほどのキラキラした視線から思わず顔をそらした。
 知らず頭に手をやったが、背広試着中の今はそこにいつものハンチング帽はない。
「あ……村雨さん、照れてますね?」
「ん?  どうしてそう思う?」
 すると梓はにっこり笑って、
「だって村雨さん、照れた時は帽子を目深に下ろして顔を隠すでしょう?」
「あー……」
 言われてみれば、確かにそうかもしれない。
「背広もできたし、あとは床屋さんですね」
「……むさ苦しいか?」
「えと…………」
「いや、言わんでいい。 自分でもわかってるさ」
「そ、そうじゃなくて!  今の髪型もワイルドで素敵ですからっ!」
 頭へと上げかけた手を止めて、行き場を探した結果、ぽふんと彼女の頭に置いた。
「っ……あんまり照れさせんでくれよ……今は帽子がないんだから」

【#30 ダリ梓】
「ねえダリウス、この前借りた本なんだけど……」
 梓の手元を見て、思わず笑いが漏れた。
「ああ、それ?  どうだった?」
「これ…… 創作、なんだよね?」
「一応、ね」
 それは何代か前の鬼の一族の首領が書いた物語、と伝わる本だった。
「ふふ、面白いだろう?  創作、ということになっているけれど、ほぼ事実だったらしい」
「えっ、そうなの?」
「そうだよ。 どうやらそれを書いた鬼の首領は、当時の白龍の神子と懇意だったらしくてね」
「へぇ…」
 彼女の困惑した顔は、おそらく笑っていいものか悩んでいるのだろう。
「ふふっ、神子を誉め称える言葉ばかりで、なかなかに滑稽だろう?  あまりに滑稽すぎて、つい手に取ってしまうんだ」
「滑稽というか……すごいよね。 『清らか』とか『可憐な』とか『天女』とか。 これ書いた人、白龍の神子のこと、すっごく好きだったみたい」
「ふぅん……」
 なるほど、彼女から見るとそういう解釈になるのか── 面白い。
「だったら、俺も『黒龍の神子』についての本を執筆してみようかな」
「えっ、困るよ……」
「ふふ、大丈夫。 そうだね── 『黒龍の神子はとてもお転婆で』」
「うぅ……」
 顔を赤くして本気で困っている様子が可愛らしい。
「『素直で真面目、表情豊かで笑顔が愛らしく、反応が初々しくてとても可愛らしい』── おや?」
 ちょっとした違和感に、ふと腕を組んで考える。
 彼女について述べてみると、どうしても誉めるような言葉しか出てこない。
「……ダリウス、どうしたの?」
 不思議そうに小首を傾げ、顔を覗き込んでくる彼女の顔を見て気がついた。
「── そうか、鬼の首領は龍神の神子を好きになる運命なのかもしれないね」
 さらに真っ赤になって俯いてしまった彼女の頭をそっと撫でた。

【2015/07/19 up】