■小ネタツイートLog【その2】
現在ツイッター(@yuna_fantasia)にて小ネタツイート垂れ流し中。
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【#11 村梓】
食事中、ふと気が付いた。
「── 動くなよ」
「はい?」
箸を止め、小首を傾げる彼女へ手を伸ばす。
「あ……」
口元についた飯粒を取ってやると、彼女は気まずそうに頬を赤らめた。
「……また『ガキ』って言うんでしょう?」
「ははっ、もう言わんさ」
指先の米粒を口に入れると、彼女はますます赤くなった。
「つ、次はちゃんと言葉で言ってくださいね」
「それより飯粒を顔につけんようにな」
「うぅ……」
彼女のことはもう決してガキなどとは微塵も思っていないが、何をしても可愛いと思えるのは、
いわゆる『愛妻家』というものになってしまったのだろう。
数年前の自分が見たら、きっと「腑抜けたな」と嗤うに違いない。
その時は「こういうのもいいもんだぞ」と嗤い返してやるとしよう。
【#12 ダリ梓】
「── 梓」
カチャリと微かな音を立てて、ダリウスがナイフとフォークを置いた。
「どうしたの?」
彼は席を立ち、こちらに近づいてくる──
なぜか、満面の笑みで。
椅子から立とうと思ったけれど、彼が後ろから肩に手を置いたから立てなくなった。
「あの、ダリウス…?」
首を捻って後ろを見上げると、屈みこんだ彼の綺麗な顔がすぐそばにあった。
そのまま彼は、私の口の端に啄ばむようにキスをする。
「なっ……ダ、ダリウスっ!?
い、今っ、しょ、しょ、食事中っ!」
ふふっ、と笑うと、彼は優雅な身のこなしで自分の席へと戻る。
「── だからだよ」
「え?」
「君の口元に残されたご飯粒が、俺を誘っていたんだ」
「──!」
キスされたことよりも、顔にご飯粒をつけていたことのほうが恥ずかしい!
「き……気をつけます……」
同じテーブルで黙々と見て見ぬふりで食事を続けていたルードたち3人が、一斉にぷっと吹き出した。
【#13 虎梓】
たまにはピクニック気分で外でランチ。
おにぎりと卵焼きメインの簡単なお弁当だけど。
公園の木陰にシートを敷いて、足を伸ばしてくつろぎながら、おにぎりを頬張る。
「── おい」
虎がいきなり私の肩を掴んだ。
「な、なにっ!?」
何を考えているのか、虎はそのまま私を押し倒したのだ。
「きゃっ!? ちょっと虎っ! 公共の場所でこんなこと──」
「うるせえ、黙ってろ」
どんなにもがいても、彼の力に敵うはずもなく。
ぎゅっと目をつぶっていると、突然口元に何かが這った。
「……え?」
「── 顔に飯粒つけやがって……もったいねえだろ」
「……は?」
解放されて、混乱しながら身体を起こす。
「えっと……私の顔についてたご飯粒を取ってくれた……んだよね?」
「おうよ」
「……びっくりした。こんなところで押し倒されるのかと──」
すると突然、虎が弁当箱を猛スピードで片づけ始めた。
「えっ、と、虎?」
「お望みらしいから、家帰ってお前を押し倒す」
「えっ、望んでなんか──
虎っ!?」
片手に私の腕、もう片方の手に弁当箱を突っ込んだバッグと広げたままのシートを引っ掴むと、
ずんずん歩いていく。
「待って!
もうちょっとピクニック楽しもうよ!」
── 結局、家に着くまで彼の歩みが止まることはなかった。
【#14 村梓】
連日行われている、結実党の会合。
朝から白熱した議論の場も、今は昼休憩で楽しげな声が響いている。
「── おっ、村雨先生も手弁当ですかい?」
「ん……まあな」
広げた包みを皆が覗き込み、蓋を開けた瞬間『おおーっ!』とどよめきが上がった。
そこには彩りも豊かな、それは美味しそうな弁当が。
向こうの世界では女子高生が普通に持っていそうな弁当なのだが、明らかにこの時代の弁当の概念を
覆すようなものなのだ。
「うゎ〜、まるで一幅の絵のようですなぁ」
「おお、そんなものも弁当に入れるのか」
感心やら羨望の溜息やら、聞いていると鼻が高い。
「……いいなぁ、おさな妻…」
ひとりの若者がしみじみと呟いた。
「……おう、いいもんだぞ」
照れ隠しに、逆に開き直って自慢する。
ぱくりと一口頬張った弁当は、見た目の美しさに違わず美味しかった。
【#15 ダリ梓】
食堂に入ると、彼女が泣いていた。
「梓…?」
「あ、ダリウス」
彼女は泣き腫らした目を隠すように、タオルで顔を覆う。
今日は一日、順調に怨霊を退治してきた。
その彼女が泣くような理由は── なくはない。
ふと元の世界を思い出して、淋しくなってしまったのだろう。
傍に寄り添い、ふんわりと腕で包み込んで、そっと頭を撫でてやる。
「── どうしたの?」
我ながら白々しい。
それでも極力優しい声音で問いかけた。
「っ……ルードくんが」
「…………ルード?」
思いもしない名前が出てきて面食らう。
有能だが、時に辛辣な彼のことだ。
厳しい言葉を彼女にぶつけてしまったのかもしれない。
「── どこにもいなくて」
「…………?」
彼を── 探していた?
「下ごしらえを手伝ってたんだけど、今日の玉ねぎ、いつもよりすごく涙が出るの。
だからルードくんにゴーグル借りようと思って」
「……………………ふっ」
知らず息が漏れ、思わず彼女をぎゅっと抱き締める。
「ダ、ダリウスっ!?」
「君を泣かせた玉ねぎには、お仕置きをしないとね」
「えっ、無理だよ、もうお鍋の中だもの。
お仕置きよりも、おいしく食べてあげて?」
── どこまで可愛いのだろう、俺の神子殿は。
【#16 虎梓】
「あっ!」
いきなり大声を出すから何事かと視線を向ければ、可愛い顔がにへらとだらしなく笑み崩れた。
「……気色悪ぃな」
「だって………えへへ」
駆け寄った彼女は腕を伸ばし、耳の上辺りをちょんと触る。
「ふふっ、ちょっとおそろい」
「……ああ、これか」
そういえば彼女も頭の横で三つ編みにしているから、同じような場所の髪を編みこんでいる自分と
『おそろい』と言えなくもない。
「それ、虎が自分でやってるの?」
「当たり前だろ。他に誰がやってくれるってんだ?」
「じゃあ、私やってみてもいい?」
「……好きにしろや」
どさりと腰を下ろすと、彼女は楽しげに髪を触り始めた。
不思議と悪い気はしない。
これが済んだら『オレにもやらせろ』と彼女の髪に触れてみよう、と考えて、思わず緩んだ口元を
慌てて隠した。
【#17 虎梓】
その『白』が強烈に目に飛び込んできたせいで、思わず足を止めてしまった。
「あ……」
それはショーウィンドウに並ぶマネキンが纏う、純白のウェディングドレス。
「── こりゃあお前にゃ無理だな」
虎が見ているのは、並んでいるうちのひとつ、ハートカットのドレス。
胸の大きさに自信がないと着こなすのは難しい。
「し、失礼ねっ!
見たこともないくせに!」
「見たことは、なくはないぜ」
「……あっ」
そうだった──
介抱された時に、確実に下着姿は見られているのだ。
「あ、あれから結構経ってるし……せ、成長してるかもしれないもの」
「へいへい……じゃあ、こっち」
虎は意味ありげにニヤニヤしつつ、隣のマネキンを指差した。
胸元をふんわり包んだ布を首の後ろで大きな蝶々結びにしてある可愛らしいホルターネックのドレスだ。
「あ、可愛いね」
「一番脱がせやすそうだからな」
「もう……またそういう方向に話を持っていくんだから……」
げんなりと溜息を吐くと、ぽふん、と頭に手を置かれた。
「── ま、何を着てようが、中身がお前ならいいってこった」
「え……」
頬がかっと熱くなった。
こっそり様子を窺うと、虎が優しい顔で笑って見下ろしていた。
その顔は反則だ──
全身が燃えるように熱い。
そして目が合った瞬間、彼の顔が意地の悪い笑みに変わる。
「どうせ脱がせりゃ一緒だしな」
【#18 ダリ梓】
囁くようなノックの音にどうぞと応え、扉の隙間から顔を出した彼女に手招きする。
「眠れない?」
「ううん、目が覚めたらお水飲みたくなって」
部屋から漏れる明かりに引き寄せられたのか──
こんな時間に男の部屋を訪ね、簡単に招き入れられるなんて、どれだけ無防備なのか。
彼女に椅子を勧め、自分も元の椅子に戻ってグラスを取り上げる。
「あ、それって……」
視線を向けられているのは、グラスの中の深紅色。
「ああ、これかい?
外国から取り寄せた葡萄酒だよ」
飲んでみる?と聞くと、彼女は思い切り首を横に振った。
「すごく綺麗な赤だね」
「そうだね……まるで血のような──」
彼女が息を飲んだのが聞こえた。
「ねえ、ダリウスって……にんにくが苦手だったりする?」
突拍子もない質問に、口に含んだ葡萄酒を思わず吹き出しそうになった。
「……梓、俺が吸血鬼だと思ってるの?」
「えっ、あ、あのっ、そういうわけじゃなくて!」
まるで葡萄酒を飲んだみたいに顔を真っ赤にして慌てているのが可愛らしい。
「ふふっ、いつも日差しの中で一緒に怨霊退治しているのを忘れた?」
「あっ……そうだよね、ごめんなさい」
「さあ、誤解が解けたら、もう自分の部屋へお帰り。
でないと、その綺麗な首筋に牙を立ててしまうよ?」
「もう、ダリウスったら。
ふふっ、血を吸われたら困るから部屋に戻るね。
おやすみなさい」
「おやすみ、梓──」
静かに扉が閉まった。
重い溜息を吐きながら、椅子に深く身体を沈める。
もしも本当に自分が吸血鬼なら──
彼女の血を吸い隷属させることができるなら、どんなに楽か。
溜息と一緒にグラスに残った深紅色を一気に飲み干した。
* * *
「── ダリウスっ!」
書斎で新聞を読んでいると、ばたばたと賑やかしく駆け込んでくる彼女。
「どうかした?」
まるで葡萄酒に浸かったように真っ赤な顔で、
「こ、こ、ここに痕つけちゃ駄目ーっ!」
と首筋を指差した。
ふいに蘇った懐かしい思い出に口元をほころばせながら、
「俺は吸血鬼らしいからね」
彼女の腰に腕を回して引き寄せて、赤い痕がくっきり残るその白い首筋に思い切り吸いついた。
【#19 ダリ梓】
最初に手をつながれた時は、迷子にならないように、もしくは逃げ出さないように、という配慮からだったのだろう。
(後者の意味の方が大きかったのだろうが)
今では手をつないで街を歩くのにも随分慣れた気がする。
ふと思いついて、
「ねえダリウス、ちょっと手を離してもらってもいい?」
「………………どうして?」
少し長い間の後で不機嫌気味に訊いてくる彼は、その端整な顔を悲しげに曇らせた。
「あっ、違うの。
ちょっと試したいことがあって」
不本意そうに力が緩められた彼の手から、自分の手をそっと抜く。
それから改めて手のひらを合わせ、少し躊躇ってから、彼の指の間に自分の指を滑らせる。
「こうやって繋ぐのを『恋人つなぎ』っていうんだよ」
言った途端、痛いほどに強く手を握られた。
「── っ…!?」
言葉が出ないほど驚いたのは、見上げた彼の顔が、それはもう溶け落ちそうな笑顔だったから。
「── いつまでも恋人同士のような夫婦でありたいね」
恋人つなぎのままの手を引き寄せられて手の甲にキスされたら、今度は私が溶けそうになった。
【#20 虎梓】
病院の廊下を歩いていると、靴の裏が床に引っかかった。
バランスを崩して転びそうになったところを、虎の腕に支えられる。
「あ……ありがと」
「ったく、手のかかる女だな。
何もねえとこで転んでんじゃねえよ」
「……うるさいな。
前に戦ってる時もよくそう言ってたよね。
悪かったわね、手がかかって」
「おい、人がかばってやってたってのに、なんだその言い草は。
つか、そっちかよ」
「そっち……って何よ」
「オレがお前を『女』って認めてやってんだから、とっととオレの女になれや」
「だっ、だからっ、もうちょっと待ってって言ってるでしょっ!」
だんだん大きくなっていた声が筒抜けだったのか、後ろのナースステーションから爆笑が聞こえてきた。
【2015/06/03 up】