■『かみさまのいうとおり』 龍馬

 宿の中庭で龍馬が見つけたのは、縁側に座って休んでいる彼女の姿だった。
 声をかけようと口を開くと同時、
「ゆき、お待たせ!」
 中から駆けてきた都が彼女の隣に腰を下ろし、膝の上に何かを広げる。
「好きな方取っていいよ」
「都、先に選んで?」
「いいから、ゆきが先に選べって」
「いいの?  でも、どっちにしよう……」
 本気で悩んでいる姿が微笑ましい。
 都の膝には串団子とまんじゅうがひとつづつ乗っているのだ。
「じゃあ……どーちーらーにーしーよーうーかーな──」
 彼女はわらべ歌でも口ずさむようにしながら、ぴんと立てた人差し指でふたつの甘味を交互に指差していく。
 どうやら何かを選択する時の言葉遊びのようなものらしい。
「──てーんーのーかーみーさーまーのー」
 可愛いもんだな── ふと、甘味のどちらかをちょいと失敬してやろう、と思いつく。
 といっても、もちろん奪って食べようなんて気はさらさらない。会話に参加するための口実のようなものだ。
「いーうーとーお──」
 そっと近づいて、手前のまんじゅうに手を伸ばす。
「── り!」
 彼女の指先が、龍馬の手の甲を押さえて止まったのだ。
「あっ」
「ぬわっ!」
 慌てて手を引っ込める。
「おい坂本っ!  なに勝手に取ろうとしてんだよ!」
「すまんすまん、腹が減ってたもんでな」
 都の剣幕をあしらっていると、くすくすと笑う声がした。
「……お嬢?」
「ふふっ、龍馬さんを選んじゃった」
 さっき甲に触れた指を、もう片方の手で包むようにして笑っている。
 自惚れでなければ、それがとても嬉しそうに見えて。
「あー、そんじゃ……遊びに行こうぜ!」
「はい」
 あっさり頷いた彼女は、縁側からすっと立ち上がる。
「ごめんね、都。 それ、両方食べて?」
「おい、ゆき !?」
「すまんな、都。 お嬢を借りてくぜ」
 膝の甘味が邪魔をして立ち上がれない都を残して、中庭を後にした。

「── けど、よかったのかい?」
 並んで通りを歩きながら、訊いてみた。
「はい、『かみさまのいうとおり』ですから」
 と彼女はにっこり笑う。
「ハハッ、『かみさま』に感謝せんとな!」
 今日はいい一日になりそうだ──

〜おしまい〜

 地域によって文言が違うとは思いますが。
 診断メーカー「ふたりへのお題ったー」より。
 ツイートするには長すぎるので、こちらで公開。

【2013/02/08 up】