■病 龍馬

※小ネタツイート通常SS化リクエスト【#53「病」】

 神子と八葉がぞろぞろと歩く山道は、今朝一時降った雨の湿気と生い茂る草でむせるような濃密さだった。
 先頭には行く手を警戒しながら進む瞬、その後ろに二人の神子が楽しそうにおしゃべりしながら続く。 そして最後尾に龍馬はいた。
「── いいのか?」
 隣を歩いていた高杉が、ぽつりと呟く。 視線は前を向いたままだ。
「んあ?  ……ああ、後ろの守りも必要だからな」
 彼女の後ろ姿を見つめながら零す言葉に嘘偽りはない。 これだけ守り手がいるのだから、自分がしゃしゃり出る必要もないだろう。 ただ、彼女を傷付けたくないが故に、『見守る』という建て前を免罪符にして彼女から逃げているのかもしれない。
 そう自覚すると胸が苦しくなった。
 道の脇から覆い被さるように葉を延ばしている萱(かや)の葉先がチクチクと触れてくるのが無性に鬱陶しかった。
 彼女は変わらず楽しい話をしているのだろう。 大きな身振りで都に笑いかけていた。
 そして萱の葉を払うようにぶんっと大きく手を振り上げて、
「痛っ!」
 声を上げて立ち止まる。
「ゆき !?  血が出てるじゃないか!」
 彼女の手を取り、都が叫ぶ。
「うん……葉っぱに当たって切れちゃったみたい……でも、大したことないよ」
「ああ……ゆきちゃんの白魚のような手に痕を残すとは……あの萱の葉が恨めしい……」
 彼女の手を覗き込み、この世の終わりが来たような顔で桜智が嘆く。
「うわっ……福地の病気がまた始まった」
「おい桐生、手当てしてやったほうがいいんじゃないか?」
「僕の手拭いでよければ使ってください」
 彼女の周りに仲間たちが集まっていく。
「おい、瞬!」
 大袈裟に溜め息を吐いた瞬が、懐から何かを取り出した。 小さな紙片のようだった。 重なっているのか、紙をはがしながら彼女の前に立つ。
「……ゆき、手を出してください」
「うん」
「おっ、絆創膏!  いいもん持ってるじゃん、瞬!」
 瞬は再び溜め息を吐いて、彼女の指に何かを巻きつける。
「……気をつけてください」
「うん……ごめんなさい、瞬兄。 みんなも、心配かけてごめんなさい」
 彼女は律義に深々と頭を下げる。 辺りの騒然とした空気が、ふっと穏やかに軽くなったように感じた。
 頭を上げた彼女と、ふと目が合った。 ふわりと広がる微笑みに釣られて、ぎこちなく笑みを返す。
「……行こうぜ、お嬢」
「はい」
 そして一行は山道を進み始める。
 通り過ぎざま、彼女を傷つけたと思しき葉に手を触れた。 仇討ちでもするかのように、その葉を毟り捨てる。
 傷ついた彼女に労りの言葉すらかけず、傷付けた草に恨みをぶつけるなんて── 皆が『病気』と揶揄する桜智よりも、自分はもっと酷い病にかかっているに違いない。
 この病はいつか治るのか、それとももっと悪化してしまうのか。
 彼女の後ろ姿を見ていると、ますます胸が苦しくなった。

〜おしまい〜

 龍馬さん、無駄に病んでます(笑)
 いいひとな部分だけじゃなくて、ドロドロした部分もあるんだろうな、と。
 だって、人間だもの(笑)
 リクエストありがとうございました。
 あまり話が膨らまなくてごめんなさい。
 まだまだ受け付けますのでお気軽に。

【2012/06/28 up】