■逆 襲
※初々しいキス10題 10:真っ赤な顔ふたつ (お題提供:TOYさま)
朝食を取ろうと広間へ向かう廊下で、ひょっこり彼女と出くわした。
彼女が向かうのも同じ場所なのだから、当然と言えば当然なのだけれど。
「おはよう、お嬢!」
「おはようございます、龍馬さん」
ふわりと微笑む彼女、今朝はまずまずの体調のようだ。
射し込む朝日を全身に浴びる姿は、まるで彼女自身が光っているように見えた。
その神々しさは某情報屋でなくともうっとりと眺め、天女のようだと称賛したくなるのも無理はない。
何気なく、廊下の外に広がる庭へ目をやった。
彼女も隣に立ち、しばしの間、並んで庭を眺める。
「いいお天気でよかったですね。
朝ご飯しっかり食べて、頑張って歩かなきゃ」
「おっ、その調子なら、明日には日光に到着だな」
「そう、ですね」
ふと彼女が身を強張らせたのが伝わってきた。
少し震えた声にも緊張が滲んでいる。
日光──
最後の戦いがそこに待っている。
龍馬はそっと彼女の肩に腕を回した。
少し驚いたのか、彼女が大きな瞳で見上げてくる。
彼女の前に屈み込んで、ほんの一瞬だけ、唇を合わせた。
「── 心配すんな、お嬢ならやれるさ。
それに、俺がついてる!
── って、お嬢?」
彼女はぱちぱちと瞬いたかと思ったら、みるみる顔が真っ赤に染まり、きょろきょろと落ち着かなく目を泳がせて、最後には深く俯いてしまったのである。
「い……いきなりは、ずるいです……」
どうやら今の不意打ちにすっかり照れてしまったらしい。
「すまんすまん、お嬢を励ましてやりたかったんだが──
そうだな、いきなりはいかんよな。
よし、次からはちゃんと予告して──」
「そ、そういう問題じゃ……なくて……」
「そうなのか?
……うーん、難しいもんだな。
俺だったら、お嬢からしてもらえるならいつだって嬉しいと思うんだがなぁ」
しみじみと呟いた途端、彼女の肩の上に乗せていた腕がすっと居場所を失った。
身体を捻った彼女の顔がぐんと近づいて、顎の辺りに柔らかい何かが触れた。
── 今、何が起こった?
しばし呆然。
気がつけば彼女の姿はそこになく、ばたばたと慌ただしい足音が遠ざかっていく。
「あー……」
恐る恐る、まだ感触の残る顎に手をやって。
「……確かにいきなりはいかんな……これじゃ心臓がもたんって」
年甲斐もなく真っ赤に染まった顔で天を仰いだ。
〜おしまい〜
やりたい放題・その2
でもやり返されるとドギマギ(笑)
【2012/05/26 up】