■ポッペンふたたび
※初々しいキス10題 07:あ、間接キスだ… (お題提供:TOYさま)
柔らかい紙で厳重に包んで大事に大事に持ち帰るのは、薄いガラスでできた『ポッペン』。
彼女が身体を休めている間に、何か喜ばせるものを、とふらりと出た町で見つけたのは数日前のこと。
あれでもないこれでもない、と散々悩んで彼女の好きそうな絵柄を選んで買い求めたものの、それは残念ながら床に落ちて儚く割れ散ってしまった。
その瞬間の彼女の悲しそうな顔。
せっかく喜ばせてやりたいと思っていたのに、このままでは逆効果になってしまいそうで嫌だった。
再び同じ店に赴き、百万本──
はさすがに今は買えないから、並んでいるものの中で一番可愛らしい柄のものを選ぶ。
それが今手にしている二つ目のポッペンだ。
なかなか体調が戻らず、部屋で休んでいる彼女の元へ。
「お嬢、土産だぜ」
紙包みを渡す。
嬉しそうに受け取ってくれた彼女は、そろりそろりと包みを解いていく。
「── あ、ポッペン!
……可愛い」
ふわっと微笑んだ彼女。
選んだ柄は気に入ってもらえたようだ。
「ああ、あのままじゃ、なんかこう……納まりが悪くてな」
「ごめんなさい……私が割ってしまったから」
「いやいやいや、謝らんでくれ!
あれは俺がちゃんと受け取らんかったからで──
って、これじゃあいつまでも堂々巡りだ。
よし、この話はこれで終いだぜ。
な?」
「はい……」
青白い顔に淡い笑みを浮かべて、彼女は頷いた。
「……吹いてみてもいいですか?」
「おう、しっかり吹いてくれよ。
なんたって、厄落としなんだからな」
微笑んだ彼女が細い管に口を付け、ふうと息を吹き込めば、底の薄いガラスが膨らんでポコンと音がする。
口を離せば空気が抜けて、ペコンと音を立てて元に戻った。
繰り返し続けると、確かにポッペン、ポッペンと聞こえてくる。
「どれ、今度こそ俺もやってみるかな。
お嬢、借りてもいいかい?」
「はい、もちろんです」
水を掬うようにして両手を差し出す。
滑稽なほど慎重に、けれどしっかりと手の上に乗せられたポッペンを確実に受け取って。
「よーし、無事に受け渡し成功、だな」
「はい……よかった」
彼女の笑みがここ最近で一番晴れやかなものに見えて、龍馬自身もまた嬉しくなった。
──お嬢に降りかかるすべての厄が、綺麗さっぱり落ちますように。
切実な思いを込めて、ガラスの管に息を吹き込む。
何度も何度も、ポッペン、ポッペンと吹き鳴らした。
「── ん?」
気がつけば、彼女は少し血色の良くなった顔でぼーっと龍馬の口元を見つめていた。
「どうかしたかい?
……あっ、子供みたいだって呆れてんだろ」
「いえ……あの…………間接……キス……」
「『きす』?
お嬢、魚が食べたいのかい?
だったら、宿に頼んできてやるぜ」
「じゃなくて…………英語の……」
「英語の?
ああ、なるほど、英語の『キス』な」
納得しながらポッペンをもうひと吹きして、ポコン、ペコンと鳴らした。
そういえば、彼女が吹いたポッペンを拝借して、その後で自分で吹いて──
ここまでの状況確認をしつつ、以前教えてもらった英語の意味を思い出して、
「── ぬおぁっ !?」
やってしまった自分の行動にかぁっと頭の天辺まで血が上り、あやうくポッペンを落としてしまいそうになったけれど、どうにか彼女を悲しませずに済んで、ほっと胸を撫で下ろした。
〜おしまい〜
あのイベントで「割れてなければ、間接キス?」って思ってました(笑)
【2012/05/25 up】