■秘密のあいさつ 龍馬

※初々しいキス10題 01:鼻と鼻がゴツン (お題提供:TOYさま)

 最初の口付けの後、顔の向きを変えようとしたら鼻と鼻とがゴツンとぶつかった。 ほとんど離れないまま顔を動かしたせいだ。
「あっ」
「おっと、すまんすまん。 痛かったかい?」
「いえ……大丈夫です」
 消え入りそうな声でそう言って、桜色に染まった顔を俯けるその仕草もまた、たまらなく可愛らしい。
 仕切り直してもう一度口付けようと顔を近づけると、
「── あ」
「ん?  やっぱり痛かったか、鼻?」
「いいえ、ちょっと思い出したことがあって」
「なんだい?」
 彼女はくすっと笑って、
「どこかの国では、挨拶する時、鼻と鼻をくっつけるって聞いたことがあるんです」
「へぇ、そりゃ変わった挨拶だな」
 普通、挨拶といえば居住まいを正して頭を下げるもの。 外国では手と手を握るシェイクハンドが一般的だと聞いたが、鼻と鼻、なんて挨拶は初耳だ。
「うーん、お嬢とならそういう挨拶も大歓迎だが、他の奴らと鼻をくっつけるのは勘弁だなぁ」
「ふふっ、そうですね。 私も都とかだったらいいけれど──」
「おいおいお嬢、そりゃないぜ。 そこは『龍馬さんとなら』だろ?」
「あ、ごめんなさい」
 恥ずかしそうに伏せられた彼女の顔、朱の濃くなった頬を両手で包み、掬い上げるようにして上向ける。 ぶつけてしまわないように気をつけて、ちょん、と鼻の頭を合わせた。
「……っ」
 視点が合わないほど近くに見える彼女の顔── こんな挨拶なら、一日に何度でもしたいものだ。
 少し顔を離して、じっと見つめる。 普段は相手が勘違いしてしまいそうになるほど真っ直ぐに目を見て話す彼女の目が、途端に落ち着かない様子で泳ぎ始めた。 顔全体がさらに真っ赤に色づいている。
「── よーし、決めた!  お嬢と挨拶する時はこれにする!」
「えっ !?  あ、あのっ……こ、困りますっ!」
「嫌かい?」
「……いや、とかじゃなくて……誰かに見られたら、恥ずかしいですから……」
「ああ、もちろん俺とお嬢、二人きりの時だけだ。 約束する」
 本心としては、皆を呼んできて見せつけてやりたいくらいなのだが。
 頬を包んだ手の中で、彼女が小さくこくんと頷いた。
「ありがとな、お嬢」
 もう一度、ちょん、と鼻先をくっつける。 それから少し顎を突き出して、軽くついばむように口付けた。
 『おはよう』も『こんにちは』も『こんばんは』も『おやすみ』も、これからはこれが二人だけの秘密の挨拶。

〜おしまい〜

 初々し…い……?
 龍馬さん、やりたい放題(笑)

【2012/05/24 up】