■小ネタツイートLog【その21】
現在ツイッター(@yuna_fantasia)にて小ネタツイート垂れ流し中。
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【#201】
へちま水を買いに店に入ると、男の店員が紅を買いに来たらしい若い女性客の相手をしていた。
「この色などいかがでしょう?」
「そうねぇ……唇に乗せてみないとなんとも」
「では、おつけしてみましょうか?」
「あらいやだ! 殿方に唇に触れられたら、その方を好きになってしまうわ!」
その日の夜、
「ん? お嬢、どうかしたのか?」
「え?」
「さっきから口元を気にしてるようだが、歯でも痛いのかい?」
昼間店で聞いた話が気になってしまっていたらしい。
あらましを話して聞かせると、
「ふーん、そんなもんかねぇ…」
と龍馬は首をひねる。
「おっ、そうだ!」
言うが早いか、気づけばゆきは彼の腕の中。
「龍馬さん?」
「唇に触れると好きになっちまうんだろ?」
ニッ、と笑った彼がいきなり啄ばむように口づけた。
「──!」
「だったら指じゃ足りないってもんだ。もっともっとお嬢に俺を好きになってもらうにはな!」
考える間もなく再び唇は塞がれた。
【#202】
ベッドの下に挿し込んだ掃除機のノズルが何かをくっつけてきた。
「これは…?」
パラパラとめくってみれば、ページのほとんどが肌もあらわにポーズを決めた蠱惑的な女性の写真。
「── おっ、掃除してくれてるのかい、お嬢……って、ぬわあっ!」
手元を見て大慌てする龍馬に、ゆきは雑誌を胸元に抱き込んで背を向ける。
「……龍馬さんも、こういう雑誌に興味あるんですね…」
「いや、違うって! それは──」
ご丁寧に角を折って印をつけてあるページを開き、あたふたする彼の眼前に突きつけた。
「ここに連れていってくれたら、許します」
「……お嬢っ」
それはとあるリゾートホテルを紹介したページ。
交通費の計算や他の行楽地を含めた行程表が書かれた付箋が張り付けてあった。
「ああ、もとよりそのつもりだぜ」
【#203】
部屋に漂う酒の匂いに、ゆきは顔を顰めた。
「龍馬さん、起きてください。ちゃんとお布団に寝ないと」
体を揺すってみても、返ってくるのは幸せそうな寝息ばかり。
「……もうっ」
腹立ち紛れに彼の鼻をつまんでみた。
「っんがっ」
吹き出しそうになった瞬間、
「きゃっ!」
腕を掴まれ引き寄せられて、彼の胸に倒れ込む。
背中に回された腕にぎりぎりと締めつけられながら、
「う〜ん、お嬢〜……大好きだぁ〜……」
そんな寝言を聞けば、小さな怒りなんてあっけなく消え去ってしまう。
「……もう」
くすりと笑って、彼の静かに上下する胸に顔を埋めた。
【#204】
目を閉じてから、どれほどの時間が流れただろうか。
薄く瞼を開けて様子を窺うと、湯気が立ち昇りそうな真っ赤な顔できょろきょろと視線を巡らせている。
時々こちらがドキリとするほど真っ直ぐな言葉を無自覚に放つくせに、直接的な愛情表現はからっきし不得手な彼女。
それがが珍しく『たまには私から』なんて遠慮がちに申し出るから、期待は弾けんばかりに膨らんでいるというのに。
吹き出しそうになるのを必死に堪え、もう一度ぎゅっと目を瞑る。
「なあお嬢、なんならほっぺでもいいんだぜ?」
そう助け船を出して、目を閉じたまま片頬を差し出した。
「は、はい…っ」
そしてまたしばし。
あまりに動かぬ気配に我慢は限界。
心の中でゆっくり十まで数えてから、ぱちりと目を開けた。
ギクリと震わせた彼女の細い肩をがしりと掴み、
「そんなに焦らさんでくれよ」
慌てる姿に苦笑しつつ、可愛い唇に思い切り口付けた。
【#205】
気分転換に、と彼女を連れ出した町は、市が立っているせいで人でごった返していた。
油断すれば人の波に押し戻されてしまいそうだ。
「こりゃあはぐれちまいそうだな。お嬢、俺の腕に掴まってな」
「は、はい…」
おずおずと肘の辺りを掴んでくるのがくすぐったい。
「きゃっ」
すれ違う人に弾かれて、彼女がよろめいた。
これはしっかりと手を繋ぎでもしておかないと、本格的にはぐれかねない状況だ。
「お嬢──」
腕を差し延べながら、手を貸してくれ、と続けようとすると、
「……えいっ」
一瞬の戸惑いの後、可愛い気合いの声と共に腕に抱きついてきた。
「これで大丈夫でしょうか…?」
「お、おお、おうっ! だ、大丈夫だからしっかり掴まってなよ!」
予想外の行動と見上げてくる信頼の眼差しに動揺つつ、腕の温もりがじんわりと全身に広がっていくようだった。
【#206】
外国から取り寄せた品物を扱う商会で、ずらりと並ぶ小瓶に見入る。
前に贈った香水がそろそろ無くなる頃合いだろうから、と思い切って彼女を連れてきた。
「どれでも好きなのを選んでくれよ」
見本の瓶をあれこれ嗅いでいるが、なかなか決まらない。
「これなんかどうだ?」
彼女の背後から身を乗り出して手を伸ばす。
「俺が使ってるのと似──」
頬に、むにゅ、と何かが当たった。
「あっ、ごめんなさいっ」
両手で口元を押さえ、彼女が飛び退る。
「い、いやっ、俺の方こそすまんかった!」
思わず頬に手をやった。
たまたま彼女が顔を横に向けたら、そこに己の顔が近づきすぎていただけで。
「は、ははっ…」
偶然じゃなく、もう一度ちゃんと、なんて言ったら、彼女は赤い顔をもっと赤く染めるのだろうか、とこっそり笑った。
【#207】
「あっ」
眼前を黒い何かがすっと横切った。
「おっ、ツバメか。巣を作る場所を探してるんだな」
何羽もの燕があちらの軒先、こちらの軒先を値踏みするように飛び回っている。
「なあお嬢」
「はい?」
「俺たちも、長い旅が終わったら、どこかに落ち着ける『巣』を作れたらいいな」
【#208/同題遙か「抱」の続き】
「── じっとしてなよ」
「……ふふっ、くすぐったいです」
縁側からの声に都は思わず嘆息した。
紛らわしい会話に乱入してみれば、単に猫とじゃれていただけだった、というのが先日のこと。
相も変わらず猫と戯れているのか──
「── っ!?」
二人は縁側に並んで座っていた。
だが、あろうことか龍馬がゆきに抱きついている。
猫と戯れているわけではないのは一目瞭然だった。
再び乱入して二人を引き剥がそうとしたが、都にはできなかった。
龍馬の背中に添えられたゆきの手が、彼の羽織をきゅっと掴んでいるのに気づいたから。
【#209】
聞こえてきた鼻歌に誘われ庭に回り込んでみると、涼しげな光景があった。
「お嬢、気持ちよさそうだな」
「はい、宿の人が今日は暑いからって桶を貸してくれて」
縁側に座る彼女の足元には水の入った大きな桶。
浸した足先をひょいと跳ね上げれば水しぶきが散る。
「よかったら、龍馬さんもどうぞ」
「いいのかい?」
「はい」
彼女は少しずれて場所をあけてくれた。
「そんじゃ、お言葉に甘えて」
靴を脱ぎ捨て、袴を膝まで捲り上げて彼女の隣に腰を下ろす。
「おっ、こりゃあ冷たくて気持ちいいな!」
「ふふっ、でしょう?」
童心に返ったようにパチャパチャと水を蹴立てる四本の足。
密着した腕の辺りは熱いけれど、そんなものはさして気にならなかった。
【#210】
【2014/11/03 up】