■小ネタツイートLog【その3】 龍馬

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【#21】
 両手でそっと彼女の頬を包む。
「お嬢…」
「はい?」
 きょとんとした大きな瞳に思わず苦笑しながら少しだけ顔を近づけた。
「あの…龍馬さん…?」
 ほんの少し彼女の目元が赤く色づいたところで手をはなす。
「飯の時間だぜ」
「あ…はい」
 皆が待つ広間へ向かう彼女の背中に、
「──あと一歩、ってとこか?」

【#22】
「たまには神頼みってのも悪くないぜ?」
「そう…でしょうか…?」
「ああ、なんてったってお嬢には龍神様がついてるんだしな!」
「──そう、ですね」
 今にも消え入りそうな儚い笑みが、なぜか胸に痛かった。

【#23】
「お嬢は子供が好きなのかい?」
 目の前で転んでしまった女の子を助け起こす彼女の優しい仕草に、つい尋ねてみた。
「はい、可愛いですから。 私もいつかはお母さんみたいなお母さんになれたらなって思います」
「へぇ、立派なお母上なんだな。 お嬢を見てりゃわかるぜ」
「ふふっ、ありがとうございます」
「全部終わったら、『ご挨拶』しに行けるといいんだが」
「はい、ぜひ!  お母さん、お客様をおもてなしするの好きですから、きっと喜びます!」
「……いや、そういう意味の『ご挨拶』じゃあないんだがなぁ」
「え?」

【#24】
 夕闇の中、桜の大樹を見上げて静かに佇む彼女へと、散り行く花弁が雪のように降っていた。
 一陣の風が地に降り積もった花弁を舞い上げながら吹き抜けて、一瞬にして彼女の姿を覆い隠す。
「っ、お嬢っ!?」
 痛いほどの焦りに思わず駆け出した。
 ──行くな、行かないでくれ!
 心の中で叫びながら、縋りつくかのように抱きついて、存在を確かめるかのように強く抱きしめる。
「──龍馬さん…?」
「……桜なんかにお嬢を連れて行かれてたまるかっ」
 怯える子供を宥めるような優しい手の感触が背中に生まれた。
「……私は、ここにいますよ?」
 柔らかな声にも不安は消えず、ただ抱きしめることしかできなかった。

【#25】
「よっ、お嬢、風呂上がりかい?」
「はい、いいお湯でした」
「そうか、そりゃあよかった。 湯冷めしないようにあったかくして寝るんだぜ?」
「はい、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ、お嬢」

「──なあ晋作、湯上がりってのはいいもんだな。 こう、ほんのりと赤くなってて、ふわっといい匂いがして」
「……それは蓮水のことか?」
「ん? ま、まあな」
「……龍馬、鼻血を拭け」
「!?」

【#26】
 後ろは壁。 顔を近づければ、弱々しく胸元を押し返してくる。
「ここはお嬢の部屋だ。 俺の他には誰もいないぜ?」
「でも……」
 恥ずかしいです、と潤んだ上目遣い。 それがどんなに人を煽るのか、彼女は全然解っていない。
「…ま、お嬢が嫌がることはしたくないしな」
 少し離れると、あからさまな安堵顔。
 それが少し悔しくて、不意打ちで唇を奪ってやった。

【#27】
 力を使いすぎたせいか、今日は布団から起き上がれない。
 天気もいいし暖かいから、とさっき都が開けてくれた障子の隙間の向こうに庭が見える。
「あ…」
 いつも元気をくれるあの人の姿が横切った。 耳をすまして待っていても、聞こえるのは鳥のさえずりだけ。
「龍馬さん…」
 自然と口から彼の名が零れ出た。

「──呼んだか?」
 そっと様子を窺いに来たら、名を呼ばれたような気がして。
「あ…」
 彼女は慌てて布団を引き上げたが、隠れきれていない頬が心なしか赤い。
「お嬢、土産だぜ」
 庭から失敬してきた一輪の花を差し出した。
「…綺麗」
 ふんわりと柔らかな笑みの花が布団から顔を出した。

【#28】
 わらび餅が評判の甘味処。 どうせならいろいろ食べたいから半分ずつにしませんか、と彼女が言い出して、わらび餅と団子を注文した。
「お、最後だな。 お嬢、食っちまいな」
「いえ、龍馬さんどうぞ」
「いいっていいって。 お嬢がうまそうに食べてくれりゃ、こいつも本望だろ」
「でも──」
 皿に残ったわらび餅の一切れを挟んで譲り合う。
「仲のおよろしいこと」
 店の女将が笑いながら横を通り過ぎていった。 人に指摘されると気恥かしくなるもので。
 二人して赤い顔で俯いていると、彼女がおずおずと皿を引き寄せた。 竹の楊枝でわらび餅を切っていく。
「じゃあ、最後も半分」
 目の前に差し出されたのは、楊枝に刺された半切れのわらび餅。
「そ、そうだな」
 パクリと口に入れると、あらあら、と苦笑する声が聞こえてきて、余計に照れ臭くなった。

【#29】
「なぁお嬢、鼻はなんで顔のど真ん中に鎮座してるんだろうな?」
「鼻?  …どうしてでしょう?」
「ちょっと頭を横に傾けてみてくれるか?」
「こう、ですか?  ──っ!?」
「──な?  こういう時、邪魔になるから頭をどっちかに傾けなきゃならん」
「だ、だからっていきなりっ」
「さあ、今度は逆も試してみるぜ?」
「えっ、あのっ、──っ!?」
「──うーん、どっちに傾けた方がいいんだろうなぁ?」
「……龍馬さんっ、一体何をっ」
「わからんか?  お嬢に口付ける時、鼻が邪魔にならんようにするにはどうすればいいか、っちゅう実験だ」
「ええっ!?」

【#30】
「お嬢〜、そろそろ泣きやんでくれ〜」
 映画館を出る時からずっとこの調子で、龍馬はほとほと困り果てていた。 ベンチで隣に座る彼女に伸ばした手を頬に添え、親指で涙を拭ってやる。
「な、お嬢、うまいもんでも食って── いっ!?」
 再び零れ出した涙に狼狽する。
「うぅ…龍馬…さん…っ」
 ドサリと倒れ込むようにしてしがみついてきた胸元でえぐえぐと泣きじゃくり始めた。
 映画は主人公の死で終わる悲恋ものだったのだが、どうやら彼女は恋人に先立たれた女にすっかり感情移入してしまっているらしい。
 震える背中を撫でてやる龍馬に、彼女の涙の本当の意味が解るはずもなかった。

【2012/04/22 up】