■1月31日は…【龍馬編】
「──
おーい、お嬢ーっ」
キッチンで後片付けをしていたゆきは急いで濡れた手を拭き、声のするリビングへと駆けつけた。
「なんですか、龍馬さん?」
何か起きたのか、と思いきや、ソファに座る龍馬は賑やかなテレビの音をBGMになぜか嬉しそうに笑っている。
くいくいっと手招きされ、首を傾げながら近づくと、おもむろに立ち上がった彼にいきなり抱きしめられた。
「りょ、龍馬さんっ !?」
欧米人並みに愛情表現の豊かな人なので、突然抱きしめられることなど日常茶飯事。
とはいえ心の準備なしでは驚くなというのが無理な話で、なかなか慣れることができずにいるゆきは彼の腕の中で目を白黒させていた。
「あ、あの……どうしたんですか…?」
「ん?
今日は1月31日だろ?
今、テレビでやってたんだが──」
彼の腕に包まれる温かさと、身体に直接響いてくる彼の声の心地よさに、ゆきはゆっくりと目を閉じる。
「──
今日はな、『愛妻の日』らしいぜ」
「え……あいさい…?」
「ああ、『愛』する『妻』で『愛妻』だ」
改めて解説されると照れと恥ずかしさが一瞬にして込み上げてきた。
ゆきはぱあっと朱の差した頬を隠すように、もじもじと彼の胸に顔をうずめる。
ははっ、と少し照れたような笑い声が響いたと思ったら、身体を囲う腕がきゅっと強く締め付けてきた。
この圧迫感は、ゆきにいつも安心をくれるもの。
「──
お嬢」
「……はい」
「……『ここ』にいてくれて、ありがとうな」
「龍馬さんも……『ここ』にいてくれて、ありがとうございます」
『ここ』に至る道はそれぞれに少し違うけれど、今『ここ』にいる互いがかけがえのない存在であるという事実はひとつだけ。
〜おしまい〜
『愛妻の日』シリーズ(笑)
【2012/01/30 up】