■龍ゆきで五十音【な行】 龍馬

 【Update】「に」(13/01/28)

 【流れ星】
「── あ!」
「ど、どうしたお嬢 !?」
「あ……」
「何かあったのかい、お嬢?」
「流れ星を見つけたんですけど……お願いを言えなくて」
「願い……?  なんだそりゃ?」
「流れ星が消えてしまうまでに願い事を3回言えたら、その願いは叶うんですよ」
「へぇ、そりゃ面白いが……流れ星ってのはすぐに消えちまうから、なかなか難しい願掛けだな」
「はい……咄嗟に声が出せなくて、頑張って頭の中で言ってみたんですけど、1回目の途中で星が消えちゃいました」
「で、お嬢はなんて願ったんだ?」
「……ふたつの世界を救えますように、って」
「そりゃ、あの短い間に三回ってのは無理かもしれんなぁ」
「そう……ですね……」
「お嬢、そんな悲しそうな顔しなさんなって。 いい方法を思い付いたぜ」
「いい方法…?」
「ああ── 『願いよ叶え!』、これならなんとか三回言えるだろ?  願いよ叶え、って願いが叶ったら、どんな願いだって叶うってことだ。 どうだい、お嬢?」
「ふふっ、いいですね、今度試してみます」
「── ああっ、ちょっと待った!  星に願掛けなんてまどろっこしいことしなくたって大丈夫だ」
「え……?」
「お嬢には龍神と四神── 神様が味方についてるんだぜ?  頼もしい仲間たちだっている」
「あ……」
「それに── お嬢のそばには俺がいる。 だから、大丈夫だ」
「はい……それが一番心強いです」
「よし!  んじゃ、明日も頑張ろうな!」
「はい!」

(根拠のない断言だけど、笑って明日を迎えるためには今は励ますことくらいしかできないから)

 【にらめっこ】
 目の前ほんの数センチのところに彼の顔がある。
「(えと……にらめっこ、じゃなかったのかな…?)」
 笑わせようとしている顔じゃない。極めて真剣な顔。
 その上、顔の両側を彼の手ががっちりと押さえていて、逃げようにも逃げられない。
「あの……龍馬さん…?」
 訳がわからなくなって、へらりと笑ってしまった。
「お嬢の負けー」
 ニッ、と口の端を上げた彼の顔がぐんと近づいて、唇を塞がれた。

(可愛い三十路(笑))

 【ぬいぐるみ】
 荒涼とした砂漠と化した家の周りを警戒も兼ねて探索し、戻ってきた龍馬。 砂埃にまみれた顔をさっぱりと水で洗い流し、真っ白なタオルで拭いつつ、皆が集う広いリビングへと向かう。
 いつもなら誰かしら居るはずのそこは、しんと静まり返っていて。
 見ればソファには、この家の主の寝姿があった。
 なるほど、起こすのは忍びない、と皆が気を利かせたのだろう。 緩やかに盛り上がったソファの縁を枕にして、すやすやとよく眠っている。 寝顔はこの上なく可愛らしいのだが、顔色があまりよくないのが気にかかった。
 龍馬は持っていたタオルをひょいと首にかけ、物音を立てないよう注意しながら、テーブルを挟んだ向かい側の一人掛けのソファに静かに腰を下ろす。 ふと、彼女のゆっくりと上下する胸元にしっかりと抱えられている妙な物体に気がついた。
「── ん」
 そろそろと彼女のまぶたが開かれた。
「あれ…?  龍馬さん…?」
「あー、すまん。 起こしちまったか?」
「いえ……都たちとお話ししてたのに、私、眠って……?」
「お嬢が疲れてるのは、皆知ってる。 気にすることはないさ」
「ごめんなさい……」
 しょんぼりと俯いてしまう彼女。 それでなくても周囲に気を遣いすぎる彼女のことだ、これ以上委縮させてしまっては、休まるものも休まらない。 龍馬は話題を替えることにした。
「それよりお嬢、さっきから気になってるんだが、その抱えてるもんは何だ?」
「え…?  これですか?」
 大きさは赤ん坊よりも二回りほど大きくてコロコロと丸っこく、全体に茶色の短い毛がびっしりと生えている。 犬の子をそのまま大きくしたような、と形容すればいいのだろうか。
「これは、くまのぬいぐるみですよ」
「熊ぁっ !?  これが熊なのかっ !?」
 熊、と言えば山中でたまに遭遇する凶暴な動物としか龍馬は知らない。 遭遇してしまえば、危険度的には怨霊を相手にするのとそう変わらないだろう。
「子供の頃、誕生日のプレゼントにもらったんですけど、なんだか懐かしくて」
 彼女はぬいぐるみの顔が龍馬に向くように抱え直した。 真っ黒なつぶらな瞳は熊とは思えないが、後ろから抱えた彼女の手によって、もこもこした筒状の前足がひょこひょこと動く様子は確かに可愛い。
「あ……龍馬さん、そのタオル、貸してもらえますか?」
「ん?  これかい?」
 龍馬は言われるまま、首にかけたタオルを取って彼女に渡した。 すると彼女はタオルを広げ、そっと熊の肩に羽織らせるようにかけてやった。
「ふふっ、こうすると向こうの世界にいる時の龍馬さんみたいだと思いませんか?」
 確かに、白い羽織に袖を通さず肩に羽織っただけの自分に似ていなくもないが──
 考えているうち、龍馬はドキリとした。 『龍馬さんみたい』と評したぬいぐるみを、彼女がきゅっと抱き締めたのだ。 なんだか自分自身が抱き締められたような気がして、少し照れた。
「あー、お嬢……その……俺は抱き締められるよりも、抱き締めるほうがいいんだがなぁ」
「えっ?  …………あ」
 彼女は自分の一連の言動に気付いたのだろう。 かあっと赤くなった顔をぬいぐるみに埋めてしまった。
 こうなったら熊ごと彼女を抱き締めてしまおうか──

(それよりお嬢、そのタオル、俺が使っちまって湿ってるんだが……いいのかい?)

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