■龍ゆきで五十音【か行】 龍馬

 【Update】「こ」(※配信ネタ注意)(11/07/09)

 【看板】
「── おおーっ!」
 仰け反るようにして龍馬が見上げるのは巨大な看板。 スタイル抜群の美しい女性が青い空と海を背景に、肌もあらわなビキニ姿で白い砂浜に妖艶に寝そべる姿は圧巻である。
「こりゃあ一体何なんだ、お嬢?」
「えと……看板、ですけど……」
「ほう、看板といやあ店の屋号を彫り込んだ木の板ぐらいしか知らんが……お嬢の世界のものは、何でも大きいんだなぁ」
 龍馬は顎に手を当て、感心しきりに巨大看板の美女を眺めている。 ゆきは微かに眉間に皺を寄せ、拗ねたようにふいっと顔を背けた。
……龍馬さんも、やっぱりこんな綺麗なお姉さんが好きなんですよね……
「ん?  何か言ったかい?」
「………………いいえ」
 だが、巨大な美女に夢中になっている龍馬は、ゆきの異変に気づかない。
「そうか……看板か……これにお嬢の絵姿を映して眺められたらいいだろうなぁ」
「……え?」
「これだけでかけりゃ、みんなが見るだろ?  『これが俺のお嬢だ!  どうだ、可愛いだろ!』って自慢できる── ああ、そりゃいかん!  他の奴らに見せるのはもったいないぜ!  お嬢の顔は俺ひとりでじっくり眺めんとな!」
 腰に手を当て看板を見上げながら、自分の思いつきにすっかりご満悦の龍馬の肘の辺りを、ゆきがきゅっと掴んだ。 その顔は絵の具でも塗ったかのように真っ赤である。
「ん?」
あの……できれば看板じゃなくて……『本物』を見てくれませんか……?
 恥じらいながらの小さな呟きに、龍馬の顔もぼぼっと一気に赤く染まった。
「そっ、そうだよなっ、すまんお嬢!」
 照れ隠しにわしゃわしゃと頭を掻いて。 その手をぽん、と彼女の肩に置いた。
「── んじゃ、お嬢の可愛い顔、俺によーく見せてくれるかい?」
あ……はい……
 巨大な水着美女の前で真っ赤な顔で見つめ合う二人を、通行人が不思議そうな顔でチラ見しながら通り過ぎていった。

(可愛いアラサー男(笑))

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 【】

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 【ケータイ】
「もしもし?」
『もっ、もしもしっ』
「少しは慣れましたか?」
『んー、やっぱりまだ不思議な感じだなぁ、こんなちっこい板っ切れからお嬢の声が聞こえるのは』
「でも、これでどこにいても龍馬さんとお話できますよ?」
『そうだな、どんなに遠くにいてもこの『けーたい』っつーもんがありゃお嬢の声が聞ける』
「でも……あんまり遠くはいやです」
『そ、そうだよな!  俺だってお嬢と遠く離れるのはごめんだ── もう二度と離さないって決めたんだからな』
「じゃあ、ずっと一緒ですね」
『ああ、ずーっとだ』
「……………………じゃあ、今度はメールを送ってみますね。 練習したみたいに開いてみてください」
『おう、頼むぜ』
 ピッ。
 通話を切って、メール画面を呼び出した。
 短い文面を打ち込み、送信してしばし──

「── 俺もお嬢が大好きだーっ!」

 隣の部屋から聞こえてきた絶叫に、ゆきは堪え切れずにぷっと吹き出した。

(だって通話中もずっとステレオみたいに声が聞こえてて、笑いを堪えるのが大変だったの)

 【香水】
「── お嬢」
 声に普段とは少し違う色をつけて呼べば、彼女は可愛らしくぽっと頬を赤く染めてぎこちなく動きを止めた。 それをいいことに、龍馬は彼女の両肩をやんわりと掴み、白い首筋に顔を寄せる。
 眩暈を起こしそうなほど甘い花の香りが龍馬の鼻腔を満たした。
 以前、同じ四神の加護を受ける対と共に彼女に贈った鏡台。 からくり仕掛けになった引き出しに忍ばせておいた香水をようやく彼女が見つけてくれた。 その香りを彼女が身に纏ってくれていることに気付いた瞬間、どんなに嬉しかったことか。
 いろいろ嗅ぎ比べて選んだのは鈴蘭の香り。 瓶から直接嗅いだ時は、清楚で爽やかで、彼女に一番似合うと思った。
 だがどうだろう、彼女から匂い立つのは胸の奥が熱く疼くほどの甘い香り。
 『かがせてくれ』と頼んだら、あっさり『いいですよ』なんて答えるから、男として意識されていないんじゃないかと少し悔しくなった。
 それでも急いで突っ走って彼女を怯えさせるわけにはいかないから、白い肌に触れるぎりぎり手前で心と身体を押し留める。
 だが幾度目かの時、ふと身体が僅かに揺れた瞬間、龍馬の鼻先が彼女の首筋にちょんと触れた。
 あっ、と小さな声を上げ、ふるりと身体が震えたのがわかった。
 たぶんその時なのに違いない── 彼女が距離の近さを身をもって意識したのは。
 それ以来、少し熱を込めて呼べば、彼女は恥ずかしそうに頬を染めるようになった。
 可愛い反応と甘い香りを堪能しつつ、少しだけ意地悪をしてみる。 ほんの僅か、鼻の頭や唇で彼女の肌に触れる。 ほんの僅か、ほんの一瞬だけ。
 ── ま、今はこれくらいで勘弁しといてやるか。
 触れるたびにぴくりと身体を震わせる彼女に苦笑しながら心の中で呟いた言葉は、もう少し我慢しろ、という自戒の意味の方が大きかった。

(龍馬さん、ついにエロ発動(笑)/なぜこのシーンのスチルがないんだ!)