■髪 型
荒れ果てた現代に残された一軒の洋館、蓮水家。
そのリビングでぼんやりとしていた福地桜智の目の前に、彼の天女が舞い降りてきた。
「おや……ゆきちゃん、髪を切ったのかい…?」
「え……桜智さん、わかるの?」
「もちろん……わかるよ……どんな些細な違いでも、キミのことならば……」
「すごい、桜智さん! 自分でもよくわからないくらいなのに。
あのね、ずっと手入れできなくて傷んでいた毛先を、都に切り揃えてもらったの」
嬉しそうにそう報告する彼女は、その場でくるんと一回転。
その動きに合わせて、揃えたばかりの髪がふわりと広がって。
彼女のあまりの可憐さを記録に残そうとした桜智だったが、悶絶するばかりで日記帳を懐から取り出せずにいる。
「── へぇ、お嬢は髪を切ってもらったのかい?」
そこへやってきたのは坂本龍馬。
桜智がオカシイのはいつものこと、というのは周知の事実。
悶える彼には見向きもせず、つかつかとまっすぐゆきの前に立つ。
「…………………」
顎に手を当て、まじまじと観察してくる龍馬の視線に耐えられなくなったゆきは、ほんのりと頬を染めた。
「……あの、龍馬さん?」
「いや……俺にはどこがどう変わったのかわからんが……」
龍馬の一言に、ゆきの口元がピクリとわずかに引きつった。
「お嬢はどんな髪型でも似合うと思うぜ? 長かろうが短かろうが──」
にぱっと笑った龍馬は、ゆきの両肩にぽふっと手を乗せる。
「──たとえ丸坊主だったとしても、俺はお嬢が大好きだぜ!」
爽やかな愛の告白と同時に、ゆきのこめかみの辺りからブチッと何かが切れる音がした。
「……龍馬さん、ひどい」
ゆきの『乙女心の結晶』がパリーンと割れて、雪のように消えていった。
〜おしまい〜
【プチあとがき】
すみません、スランプ突入です(汗)
というわけで、先日ブログに乗せたSSを移動させておきます。
美容院で髪をいじられてる時に浮かんだネタでございます。
【2011/05/12 up/2011/05/30 ブログより転載・一部修正】