■Trick or Treat!【サザキ×千尋Ver.】

 ある日の天鳥船。
 サザキは朝から台所にこもって何やら作業中であった。
「──あ、サザキ! やっと見つけたわ」
「よーぉ、姫さん。待ってたぜ!」
「え…?」
 きょとんとして首を傾げる千尋を眺めながら、サザキは手を腰に当ててニコニコ笑っている。
「姫さん、オレに何か言うことがあんだろ?」
「え、えーと…」
 実は千尋は、
  『Trick or Treat!』
  『な、なんだそりゃ !?』
  『私が前にいた世界にあったお祭りでね──』
 と、なけなしのウンチクを披露しようと思っていたのだが。
「………と、『Trick or Treat』…」
「おう、待ってましたっ! ほい」
 差し出された皿の上には──
「うわぁ……かわいいっ!」
 橙色の小さなカボチャが月見団子のように山積みされていた。
「だろだろ〜♪ いいカボチャがちょうど手に入ったから作ってみたんだ。名づけて『南瓜餅』! ……って、そのまんまだけどな。 カボチャを練りこんだ餅の中にカボチャの餡が入ってるんだぜ〜。ほれ、ひとつ食ってみろって」
「いいの?」
「もちろん。姫さんのために作ったんだからな」
「じゃあ、いただきます」
 千尋は小さなカボチャの山の天辺をひとつ摘み、ぱくりとひと口。
「んーっ、美味しいっ! カボチャの甘さがとっても上品!」
「喜んでいただけてなにより」
 会心の出来の作品を褒められてよほど嬉しかったのか、サザキはさっきからずっとニコニコしっぱなしである。
「── でも、どうして知ってたの? ハロウィンのこと」
「あー、それな……風早に聞いたんだ。今日あたり千尋が『トリなんとか〜』って言ってきたら菓子を渡してくれってな」
 数日前、調達してきた食料の中にあったカボチャを見て、風早と那岐が『そろそろハロウィンの季節ですね』とか話していたのを聞きつけたサザキ。
 常日頃から大切な姫の笑顔に喜びを感じていた彼は、二人からハロウィンのことを根掘り葉掘り聞き出して、そのカボチャを確保して今日の日が来るのを待ち構えていたのである。
 まあ、そんな裏事情は照れ臭すぎて彼女には言えないけれど。
「そうだったんだ………ふふっ、ありがとう、サザキ」
「こ、これくらいのこと、どうってことないって」
 照れて視線を外してしまったけれど、千尋の満面の笑みを見ることができたサザキは至福の喜びを噛み締めるのだった。

〜おしまい〜

【プチあとがき】
 尽くす男、サザキ(笑)
 なんかかわいいなぁ。

【2008/10/11 up/2008/10/28 拍手お礼より移動】