■アシュ千で五十音【ま行/や行】
★このページは【ま行】【や行】です。
ま 【待ち伏せ】
幽宮へ向け黒麒麟を駆る。
どこか浮かれた気分なのは、辺境の豪族との交渉がうまくいったからだけではなかった。
── もう彼女は幽宮へ到着しているだろうか。
臣下たちには彼女を丁重にもてなすよう命じておいたが、取り巻きがいるとはいえ初めての地では心細かろう。
さて、帰ったらどんな顔で迎えてくれるだろうか。
緩む口元を必死に引き締めながら帰ってみれば、彼女の姿はなく。
騒ぎ立てるのもよくないから、とそれとなく宮の中を歩き回ってみるも見つからず。
まさか外に出たのか── 黒麒麟で宮の周囲を一回り。
眼下に見えるのは土蜘蛛の少年と── 彼女の姿。宮に向かってとぼとぼと歩いていた。
先回りして幽宮の門に一番近い回廊で待ち伏せる。
「── これはまた、遅いお帰りだな」
つい言葉が棘を含む。醜い感情がそうさせるのだ。
だが。
目が合った瞬間の彼女の安堵したような微笑みが、そんな感情を見事に洗い流していった。
(ゲーム中イベより/そうだったら殿下可愛いな的な)
み 【三つ編み】
側近が持ち込んできた竹簡に目を通している時だった。
突然頭がくいっと後ろに引っ張られた。
「なっ !?」
反射的に振り返ると、開け放たれたままの扉から飛び出していく小さな後ろ姿。
追うのはたやすいが、今は執務中。
アシュヴィンは小さく笑って、手元の竹簡に目を落とした。
以降、同じようなことが幾度も繰り返され。
気を引こうと髪を引っ張るくらいのことで叱るつもりはないが、さすがに執務中は困る。
今日こそは言い聞かせよう、と私室に戻ってきたアシュヴィンは、現れた娘の姿に目を見張った。
いつもならウサギの耳のように結われている髪が、今日は両耳の下で三つ編みにされていたのだ。
娘は三つ編みの毛先をつまんでひょいと持ち上げ、
「とぉさまとおそろい♥」
と嬉しそうにニッコリ。
この瞬間のアシュヴィンに娘を抱き締める以外に何ができようか。
その光景を眺めていた彼の妻の目には彼の三つ編みにした長い後ろ髪が犬の尻尾のようにひょんと揺れたように見えて、必死に笑いを噛み殺すのだった。
(「とぉさまとおんなじかみがたにする!」と言い出すのも時間の問題(笑))