■Trick or Treat!【アシュヴィン×千尋Ver.】

 ここは常世の国、根宮の皇夫妻の部屋。
 皇・アシュヴィンが本日の執務を終えて戻ってくると、
「『Trick or Treat!』」
 目の前に立ち塞がり、にこにこ笑顔でそう言ったのは彼の妻・千尋である。
「…………………………それで?」
 彼女を見つめたままでの長い沈黙の後、アシュヴィンが言ったのはその一言。
「あ、あの、『それで?』って言われると困るんだけど……」
 依然視線を外さないアシュヴィンに、千尋の方が戸惑ってオロオロしてしまう。
「あ、あのね、前に私がいた世界でハロウィンっていうお祭りがあってね。子供たちが家を回って『Trick or Treat!』って言ってお菓子をもらうの」
「…………」
「そ、それでね、『Trick or Treat!』っていうのは、『お菓子をくれないとイタズラしちゃうぞ!』っていう決まり文句でね──」
「……今まで働いていた俺が菓子など持ってるはずがなかろう?」
「そ、そうだよね、持ってるはずないわよね、あ、あはは……」
 眉間に皺を寄せたアシュヴィン。激務で疲れて部屋に戻ってきた途端、訳のわからないことを言われれば仕方のないことかもしれないが。
 乾いた笑いで誤魔化しつつ、千尋はじりじりと後ろに下が── ろうとしたが下がれなかった。
 いつの間にか、アシュヴィンの腕が腰に回されていたのである。
「── で、どんな悪戯をしてくれるんだ?」
「へ……?」
「菓子をやれなかった俺は、お前に悪戯をされるんだろう?」
 実りの秋を迎え、そろそろハロウィンの季節だな、と思い出した彼女が、つい思いつきで始めたこと。お菓子をもらえなかった時のことまで考えているわけもなく。
 お菓子が欲しかったわけでもないし、言うなればハロウィンを知らない彼に『Trick or Treat!』と言って首を傾げさせるのがイタズラのようなものなのだ。
「い、いや、それは……」
 ふと、アシュヴィンが何かを考える仕草をした。ふ、と口の端に笑みを浮かべ、
「お前はそんなに甘いものが欲しかったのか?」
「え、えっと…別にそういうわけじゃ……」
「ふむ、生憎と菓子は持ち合わせていないが──」
 人の話を聞いているのか聞いていないのか、アシュヴィンは千尋の身体をひょいと抱え上げる。いわゆる『お姫様だっこ』である。
「── 甘い時間なら好きなだけ与えてやれるが?」
「えっ、ちょっ、あ、アシュヴィンっ !?」
 ハロウィンの夜、何があったのかは彼らのみぞ知る──

〜おしまい〜

【プチあとがき】
 うちのサイトのエロ系ネタ担当・アシュヴィン(笑)
 ……あたしのアシュヴィン観、何か間違ってます…?

【2008/10/11 up/2008/10/28 拍手お礼より移動】