■ふぉ〜りんらぶ番外編 【14:ベビーシッター・シャニ】
※13話の続きです
その夜、シャニは初めて両親と離れて夜を過ごすことに不安を感じているであろう小さな姪姫の様子を見るべく、兄一家の私室へと向かっていた。
すると、目的の部屋の扉がバッと開き、女官がひとり血相変えて飛び出してくる。
その扉が閉じるまでの間、漏れ聞こえてきたのは懸念していた通り、小さな姫がぐずる頼りなげな泣き声だった。
「シャニ様っ!」
「ラクスどうかしたの?」
「昼間はお元気でお過ごしだったのですが、夜になってまた熱をお出しになられまして……エイカ殿に看ていただこうかと。
ご両親がいらっしゃらないお寂しさもおありのご様子で、先ほどからご機嫌が……」
女官にとっても初めての事態でずいぶん戸惑っているらしい。
「ふぅん……いいよ、僕に任せて。あー、でも一応エイカを呼んできておいてくれる?」
「あ、ありがとうございますっ、よろしくお願いいたします!」
慌しく走り去る女官を見送って、シャニは問題の部屋と足を踏み入れた。
「── あれぇ、誰が泣いてるのかなぁ?」
わざとらしく声を張り上げながら奥へと進む。
と、いつも親子三人、川の字になって寝ているという大きな寝台の上に、ぺたりと座っている小さな姿。
自分と同じくらいの大きさの枕をひしと抱き締め、ぐずぐずと泣いているラクスだった。
「ふぇ〜ん、しゃにぃ……」
現れた身内の姿に気が緩んだのか、既に真っ赤に泣きはらした目からぽろぽろと涙が零れ落ちた。
「あーあー、こんなにぐちゃぐちゃになっちゃって。せっかくの可愛い顔が台無しだよ?」
シャニは寝台の上に乗り上がり、ラクスの手から枕をすぽっと抜き取って、持っていた手拭いで顔を拭いてやる。
その時に触れた彼女のほんのり赤い顔は熱かった。確かに熱が上がっているようだ。
一瞬眉をひそめるも、シャニはにこりと笑って、
「さ、ラクスはもう寝る時間だよ。しっかり眠って、早く風邪を治さなくちゃね」
ぶんぶんぶん、と頭を振って拒否するラクス。
「へぇ〜、じゃあエイカの苦〜いお薬、飲む?」
「やだっ!」
『エイカの薬』はそこまでお気に召さないのか、ラクスは慌てて布団の中へと潜り込む。
シャニは小さな姫の必死さにくすくす笑いながら、布団からちょこんと顔を出している彼女の頭をぐしぐしと撫でてやった。
「じゃあまた明日ね」
こんもり膨らんだ布団をぽんぽん、と叩いて寝台を降りようとすると、くいっと引っ張られた。
「やだ、いっちゃやだっ」
上着の裾を必死に掴む小さな手。
いつもは元気いっぱい、無敵のおてんば姫も心細さには勝てないらしい。
「……わかった、ラクスが眠るまでいてあげる」
外に出ている手を布団の中へ収めてやって、頭を撫で。
寝台の横に用意されていた手桶で手拭いを濡らして額の上に乗せてやる。
気持ち良さそうに目を細めたラクスはそのまま目を瞑り、すぐに規則正しい寝息が聞こえてきた。
シャニはくすりと笑い、そっと寝台を降りた。
と、いつの間に来ていたのか、エイカが姫の顔を覗き込み、
「── ご心配の必要はございません、明日には熱も下がりましょう」
「そっか、よかった」
後はエイカに任せ、シャニは静かに部屋を出た。
「ぅわっ !?」
そっと扉を閉め、自分の部屋に戻ろうとしたところで目に入った思わぬ光景に、シャニは思わず声を上げてしまった。
扉の横の壁に凭れ、兄が立っていたのだ。
「……ナーサティヤ兄様、どうしたの?」
「いや……泣く声が聞こえたようだったのでな」
「ラクスならもう寝ちゃったよ?」
「そうか……」
踵を返した兄に追いつき並んで歩きながら、
「兄様も心配してたんだ?」
「留守を預かる身としては、気にせずにはいられないだろう」
「ふーん……兄様って意外と子供好きなんだね」
「………………」
「だったら早くお嫁さんもらって、子供作ればいいのに」
「なっ !?」
「僕にも義姉様みたいな素敵な人が現れないかな〜」
なぜか少々頬を赤く染めて固まってしまった兄を置き去りにして、シャニは楽しそうにくすくす笑いながら自室へと戻っていくのだった。
〜おしまい〜
【プチあとがき】
ラクス姫、第三弾。
今回はラクス&シャニでございます。
でもサティもチビ姫が気になってしょうがない、と(笑)
【2009/01/11 up/2009/01/28 拍手より移動】