■ふぉ〜りんらぶ番外編 【13:遺伝】
※本編終了後のお話です
隣国の王子の結婚式に招かれて不在の弟夫妻の代わりに急ぎの仕事を片付けたナーサティヤが執務室を出ると、回廊の奥から駆けてくる小さな人影があった。
必死の形相のそれは彼の姿を見つけると、
「── なぁな! たすけてっ!」
駆け寄るスピードもそのままに、彼の片足へがしっと抱きついた。
「どうした、ラクス」
「にょかんのひとが、らくすのことおいかけるのっ」
頭を目一杯後ろに傾けて見上げてくる小さな姫は今にも泣きそうな顔になっていた。
「── ラクシュミ姫様ーっ!」
ラクスの言う通り、一人の女官が姿を現した。おそらく小さな姫とほぼ同じ距離を走ってきたのだと思われる彼女はよろけて壁に手をつき、肩で荒い息をしている。
それに引き換え、ラクスは息ひとつ乱すこともなく。
子供というものは小さな身体のどこにこんな体力を秘めていのだろうか、とナーサティヤは内心苦笑した。
「な、ナーサティヤ様っ! 姫様を……姫様を…っ」
女官はふらふらしながら歩を進めつつ、必死に手を伸ばす。
姫をどうしてほしいのか解らない── たぶん『捕まえてくれ』と言いたいのだろうが── ナーサティヤがただ佇んでいると、ラクスはぱっと彼の足から離れ、回廊の縁に立った。
そして、
「きりんさーーーんっ!」
両手をメガホン代わりに口元に当て、空に向かって叫んだのである。
虚空から現れた黒麒麟はすぅっと高度を下げ、回廊の縁ギリギリに身体を寄せた。
ほぼ同時にラクスはとん、と床を蹴り、ひらりと麒麟の背にまたがって、きゅっと首に抱きついた。
それを合図に麒麟は再びふわりと宙に浮かび上がる。
「ああっ姫様っ !? お薬を、お薬をお飲みくださいっ!」
そういえば、弟夫妻は姫も一緒に連れて行く予定にしていたのだが、彼女が熱を出してしまったために置いていったのだ、とナーサティヤは思い出す──
姫があまりに元気そうなためすっかり失念していたが。
「やだっ! えいかのおくすり、にがいんだもんっ!」
ラクスは涙をいっぱいに溜めた目でギロッと女官を睨むと、そのまま空高く舞い上がっていった。
「姫様ぁ〜……」
さすがに空へと逃げられてしまえば捕まえることなどできるはずもなく。
小さな姫のおてんばっぷりは、やんちゃな父親とおてんばな母親の血を紛れもなく引いているのだから仕方のないこと。
ぺたりと座り込んで呆然と空を見上げる女官の情けない姿には同情するけれど。
感情をあまり表に出すことのないナーサティヤには珍しく、こみ上げてくる笑いに肩を震わせるのだった。
〜おしまい〜
【プチあとがき】
ラクス姫、第二弾。
どうもあたしはサティとラクスのコンビが好きらしいです(笑)
当然ながら、チビ姫も黒麒麟とは仲良しなのです♪
【2009/01/05 up/2009/01/11 拍手より移動】