■ふぉ〜りんらぶ番外編 【9:元・保護者への意趣返し】

※本編終了後のお話です

 アシュヴィンと千尋を乗せた黒麒麟は、直接橿原宮内部の舞台のような広いスペースへと降り立った。
 本来ならば門を経由して、しかるべき手続きの上で案内されてくるべき場所ではあるのだが。
「── 二ノ姫様のお戻りだぞ!」
 嫁いでいった二ノ姫とその夫の来訪は周知のことだったらしく、嬉しそうに顔を綻ばせる者たちがどこからともなくわらわらと集まってきた。
 騒ぎの中、王宮からやってくるのはかつて共に戦った仲間たち。
 アシュヴィンは麒麟の背から降りると、彼らの方へと歩み出た。
「あー……いろいろと迷惑をかけた」
「いいえ、無事元通りのようで何よりです」
 にこやかに答えたのは千尋の元・保護者、風早である。
 他の者は事情を聞かされていないのか、二人の会話について来れずにポカンとした顔で両者の顔を見比べている。
 先日、前もって使者を立ててこちらを訪問したい旨打診したところ、使者は一巻の竹簡を持ち帰った。
 バサリと開いて読んだアシュヴィンは、思わず竹簡を取り落としてしまったのである。
 それには風早の筆跡で簡潔に『手ぐすね引いて待ってます』と書かれてあった── 見ただけでもおどろおどろしい薄ら寒い気を感じるような文字で。
 貼り付けたような風早の無駄に明るい笑みに頬をひくつかせていると、
「── 風早ー! 那岐ー! みんなー! 久しぶりー!」
 麒麟の背に乗ったまま手を振る千尋。
 それを見た瞬間、風早のさっきまでの作り笑顔は本物の笑顔に変わっていた。
 脚を折って身体を低くした黒麒麟からよいしょ、と下りて、ぽてぽてと歩いてくる彼女に、
「ちゃんと食べてください、とは言いましたけど、食べ過ぎもいけませんよ」
 苦笑しながらそう言って。
「えーっ、わかる? そうなの、つわりが治まったらご飯が美味しくって、つい食べ過ぎちゃうんだよね〜」
「え………つ…わり……?」
「……まあ、そういうことだ」
 傍までやってきた彼女の後ろに回り込み、支えるようにして抱き締めたアシュヴィンがニヤリと笑った。

 そして『二ノ姫ご懐妊』を酒の肴にどんちゃん騒ぎとなり。
「おー、この中にアシュヴィンの子がいるのか〜。へぇ〜、姫さんが母親にねぇ〜」
 と千尋のふっくらした腹を無遠慮に撫で回していたサザキ(風早から報せを受けてはるばる日向から来ていた)が後にアシュヴィンの放つ『黒雷』でぷすぷすと焦げていたりもしたが、 なべて平穏に楽しい時間は過ぎていき。
 今度は三人で顔を見せに来ることを約束して、千尋の二泊三日の里帰りは終了したのである。

 帰りの黒麒麟の背中の上で、アシュヴィンはほぅ、と息を吐く。
 『この子が生まれてからじゃダメなの?』と渋る彼女を無理矢理連れて来て正解だった、と。
 彼単身でここへ乗り込めば、どんな目に遭わされていたかわからない── アレの正体を思えば考えるだに恐ろしい。 だから念のため、切り札として『その事実』も知らせずにここへ来たのだ。
 案の定── 再会した早々彼女の妊娠を知った風早は、ムンクの『叫び』のような顔でピキンと硬直したきり動かなくなってしまったのである。
 同門の二人が両脇から得物の先でツンツンつついてみても、元々白っぽい上にさらに真っ白に燃え尽きた彼は微動だにすることなく。
 それからアシュヴィンたちの滞在中、一度も姿を見せず。
 これで義理は果たした、とばかりに浮かれるアシュヴィンは、これまた懐かしい顔に会えてご機嫌な千尋を抱き締め、帰りの空の旅を満喫するのであった。

 後で那岐からもらった便りによれば、部屋に閉じこもりっ放しの風早はずっと『この千年はガマン、この千年はガマン』と呪文のように呟いていたらしく、 何のことだろうと二人で首を傾げたのだった。

〜おしまい〜

【プチあとがき】
 本編終了、その後。
 なんだか本編のシリアスが台無しっていうか……(汗)
 パラレル……いやパロディだと思ってください。
 ごめんよ風早(笑)

【2008/12/09 up/2008/12/13 拍手より移動】