■ふぉ〜りんらぶ番外編 【5:フラワーショップ・シャニ】

 一日中外にいたおかげですっかり埃っぽくなってしまった身体を湯殿で洗い流し、すっきりしていい気分で部屋で寛いでいたシャニの元にやってきた訪問者。
 それは皇として昼夜問わず国の復興に走り回っている多忙な兄だった。
「── シャニ、碧の斎庭の状況はどうだ?」
「あ、兄様!  うん、順調だよ。 今はまだ栄養のある土を作ってる段階だけどね」
「そうか。 中つ国の連中に花の苗を送るよう頼んでおいたんだが……そろそろ届く頃だろう、植えてやるといい」
「ほんと !?  うわ、楽しみだなぁ。 どんな花が届くんだろう♪」
「あーそれから──」
 アシュヴィンがマントの下から躊躇いがちに取り出した布の袋をひっくり返すと、子供の握り拳ほどの茶色い物体がごろんごろんと転がり出た。
「これは……球根?  見たところ、百合みたいだけど……」
「ああ、笹百合だ。 これも一緒に植えてくれ」
「うん、いいけど……珍しいね、兄様が花を植えてくれなんてさ」
「そうか?  俺にだって花を見て美しいと思う心はあるし、好きな花のひとつくらいあるんだぜ?  まあ、今のところは暢気に花を愛でているような暇はないがな」
 楽しそうにくつくつと笑っていたアシュヴィンの顔がふっと一瞬真顔になった。
 その後でみるみる浮かんできたのは、シャニがこれまで見たことのないような優しい笑み。
「── この花が見渡す限りに咲き乱れるのは、さぞ美しいだろうな」
 うっとりと呟いた彼は、さっさと部屋を出て行ってしまった。
 そして残されたシャニは──
「『見渡す限り』って……無理だと思うけど」
 テーブルの上に転がる十個ほどの球根を呆然と見つめつつ、大きな溜息を吐くのだった。

〜おしまい〜

【プチあとがき】
 がんばれシャニ!(笑)
 しっかり育てて、株を増やしてやってください(笑)

【2008/10/27 up】