■小ネタツイートLog【その5】
Twitter(@yuna_fantasia)小ネタツイートまとめ。
【#41】
久しぶりに合流すると、望美は話すどころか視線さえ合わせてくれず。
「なんだありゃ?」
「ふふっ、将臣殿がいなくて寂しかったのよ、あの子」
「ガキじゃあるまいし」
「子供じゃないから、ではないの?」
と朔が笑う。
「……あー」
痛いところを突かれて返す言葉もなく、不機嫌な背中を追いかけた。
【#42】
「……ロマンチックじゃない」
「俺にロマンを求めるなって」
ポケットに突っ込まれた彼の手をぐいっと引っ張り出し、パシッと音を立てて握る。
「でも……待ってたんだと思う。ずっと」
幼い頃、おもちゃの指輪を指にはめた時から。
繋いだ手をぶんと振って歩き出す。
永遠を誓う指輪を買いに宝石店へ。
【#43】
床に入れば、昼間の怨霊との戦いで疲れた身体は泥濘に沈んでいきそうなほど眠りを欲していた。
手探りで懐の固い感触を取り出し、両手で握り締める。
本当は蓋を開けて音を聞きたいけれど。
「今夜は……会えるかな……?」
おやすみ、と呟いて枕元に置く。
満月の夜、眠りにつく前の、ささやかな儀式。
【#44】
おぞましい奇声が聞こえるのとほぼ同時。
ぐいっと腕を引っ張られ、よろける間もなく背中にドスンと軽い衝撃。
「痛いよ、もう!」
文句をいいつつ剣を抜く。
肩越しに振り返れば、既に抜き放たれた大太刀が鈍く光っていた。
「悪ぃ、急だったんでな── 行くぜ」
「うん」
互いの背中は守ってみせる。
【#45】
買い物に行こうと望美が家を出ると、
「あれ? 将臣くん、今帰り?」
将臣は、ああ、と答え、持っていたレジ袋から何かを取り出す。ペットボトルだ。
「お水? あ、それ、CMで見たよ。『飲んだ感じがキスに似てる』って」
「へえ」
目の前がすっと暗くなる。
「……将臣くん、なんか近いよ…?」
すると彼はペットボトルを目の前にかざして、
「似てるかどうかは、比較対象を確認しねえとな」
「む、無理に今確認しなくても、思い出せばいいでしょっ」
じりじりと迫られて、少しずつ後退る。
バゴッ!
「いっ!?」
鈍い音が聞こえたかと思ったら、彼は声にならない声を上げてしゃがみ込み、
「── ってえ、何しやがる譲っ!」
後頭部をさすりながら吠える。
「兄さんこそ何やってるんだ! 先輩が嫌がってるだろ!」
別に止めてくれなくてもよかったんだけど、でもここ道路だし、人に見られても困るし、実際譲くんに見られてたかもしれないし──
そんなことを考えていた望美は見てしまった。
怒りをあらわにする譲が持っている武器が、将臣が持っているのと同じラベルのペットボトルであることを。
【#46】
「将臣くん、結構腕の筋肉すごいね」
「そうか? ま、この島に来てから、力仕事ばっかだしな」
「ふふっ、なんだかこんがり焼けたローストチキンに見えてきた」
「……食うなよ?」
「食べないよ!」
「肉か……焼肉食いてえ」
「うん……って、なに、その飢えた狼みたいな目は」
「俺、肉食だし。肉食いてえと思って」
「ひ、昼間から変なこと言わないでっ!」
「んじゃ、夜にな」
【#47】
「望美、今ちょっといいか?」
「ごめん、今から九郎さんに剣の稽古つけてもらうんだ」
別の日。
「望美」
「あ、弁慶さん!ちょっと聞きたいことが」
さらに別の日。
「──のぞ」
「神子ー! 譲がぷりん作ったよ!」
「わぁ♪ 一緒に食べようね、白龍」
「……将臣くん、なんだか不機嫌?」
その一言で、どこかで何かが壊れた気がした。
将臣は望美の頭を無茶苦茶に掻き回す。
「やめてよ! もう、何怒ってるの!」
「……お前にゃわかんねえよ」
【#48】
「── 梅雨、明けちゃったね」
見上げた青空に僅かに浮かぶのは夏の雲。
少し早い梅雨明けに戸惑っているのか、蝉の声はまだ遠慮がちだ。
「明けた途端、この暑さか。もうちょっと雨降ってくれてもよかったな」
「だよね。今年こそ『雨の紫陽花』を見に行こうと思ってたのに」
「惜しかったな」
普段なら『花より団子』なくせに、と訝っていると、
「でも、梅雨が明けるとアイスとかがおいしい季節だよね!」
やっぱりか、と思わず吹き出した。
「ちょっと、何笑ってるのよ」
「……いや、かき氷もいいと思ってな」
「あ、うん、確かに!」
彼女の眉間に刻まれた不穏な皺が、一瞬にして晴れる。
「ねえ、せっかくだからアイス買って帰ろうよ」
「はあ? 早速か?」
帰り道を逸れていく彼女を追う自分は意外と辛抱強いのかもしれないと思いつつ、こめかみを流れる汗を袖で拭った。
(紫陽花:辛抱強い愛情/元気な女性 他)
【#49】
夏休みの課題を抱えて押しかけてきた望美。
エアコンの快適さのおかげで集中していたのだが、ふと二人同時に顔を上げた。
「……やけに近いな」
「そうだね」
聞こえる耳障りな音を辿って視線を移せば、網戸にしがみつく蝉が一匹。
そこへもう一匹が飛んで来て、やかましさが倍増して大迷惑だ。
そんな人間の都合はお構いなしに高らかに鳴きながら二匹の蝉はゆっくりと近づいて、ぴたりと身体を寄せ合った。
「あ、仲良しさん?」
「バーカ、交尾だよ、交尾」
「……そ、そうなんだ」
「まあ、何年も地中で過ごしたこいつらのラスト1週間の大仕事だ。温かく見守ってやろうぜ」
「み、見守らなくていいよっ」
なぜか望美は大慌てで勉強道具を片付け始め、
「用事思い出したから帰るね!」
と慌ただしく部屋を出て行った。
階下から玄関のドアが閉まる音がして、将臣は思わず吹き出す。
「── なに妙な意識してんだ、あいつ」
呟いた後でしばし考え込み、誰もいないのに何かを誤魔化すような咳払いをひとつ。
窓に目をやれば、いつの間にか蝉はどこかに飛び去っていた。
【#50】
「── じっとしてろって」
「あっ……いやっ、だめっ!」
玄関のドアを開けた途端耳に飛び込んできた声に、譲は血相変えてリビングに駆け込んだ。
「兄さんっ! 先輩に何……を…?」
目に入った光景に、思わず言葉の続きを飲んだ。
確かに二人の密着度は高い。
だが、兄に手首を掴まれ高く掲げられた彼女の手にはフォーク。
その先端には薄茶色の物体が刺さっている。
「あっ譲くん! 将臣くんってばひどいんだよ!」
「何が『ひどい』だ。『一口食べる?』って差し出しておいて、『やっぱりやーめた』とか言って引っこめるからだろ」
「だからって、無理矢理食べようとしなくてもいいじゃない!」
事情が解った譲は、痛みを感じ始めたこめかみを指先で押さえつつ盛大に溜息を吐いた。
「ところで先輩……いつまで兄さんの膝の上に乗ってるんですか…?」
【2014/11/03 up】