■小ネタツイートLog【その4】 将臣

 Twitter(@yuna_fantasia)小ネタツイートまとめ。
 ※「同題遙か」記載のあるものはTwitterでの企画参加作です。(ハッシュタグ:#同題遙か)

【#31/同題遙か「嫁」】
「今更だよなぁ」
 砂浜に座る将臣がぽつりと呟いた。
「何が?」
 望美は彼の隣に腰を下ろす。
「尼御前がさ、お前に花嫁衣装くらいは用意してやりたいって言ってくれてな」
「わ、嬉しいな」
「だが学校じゃ俺の周りの奴ら、お前のこと『有川の嫁』って呼んでたし、今更なんだよなぁ」

【#32/同題遙か「ねぇ」】
「ねぇ」
「ん」
「ありがと」
 とテーブルの上で醤油が移動したり、
「なぁ」
「はい」
「サンキュ」
 と消しゴムが手渡されたり。
 まるで熟年夫婦のよう、というか、ほとんどエスパー並みで。
「ねぇ」
 兄は答えることなく彼女の顔へと屈み込んだから、慌てて背を向け静かに退散した。

【#33/同題遙か「霜」】
「将臣くん、なんだか嬉しそうだね」
「まあな。 バイトでボーナス出てさ、懐があったかい── って、なんだよその顔」
「えへへっ、何かおごってくれるのかなーって♪」
「ったく、しょうがねぇな。 何がいい?」
「最高級霜降り牛のすき焼き!」
「……牛丼くらいで勘弁してくれ」

【#34/同題遙か「責」】
「悪ぃ、これからバイトだ」
 すっと笑みを消した望美は、被っていたパーティ用のとんがり帽子を脱ぐと、テーブルにそっと置いて自宅へ帰っていった。
「…なんだよ」
 責められ詰られればまだ気が楽だったのに。
 上着のポケットからラッピングされた小さな箱を取り出して溜息を吐いた。

【#35/同題遙か「拭」】(※#34「責」つづき)
 彼女の部屋の前、扉越しに声をかける。
「入るぞ」
 扉を開けた瞬間、クッションが飛んできた。
「将臣くんのバカ!  せっかくのクリスマスなのに!」
 ベッドに突っ伏す彼女の頭の上にそっと小箱を置く。
「え…?」
「奮発したから許せって」
「…うん」
 目元に滲んだ涙を唇で拭った。

【#36】
「じゃーん!」
 望美が嬉しそうに取り出したのはパ○コ。
 よく見かけるコーヒー味とは違って、女が好みそうなピンク色のパッケージだ。
「期間限定なんだよ♪」
 このクソ寒い中、アイスかよ
 思ったことを口に出す間もなく、パキンと割ったひとつが目の前に差し出された。
 まあ、暖かい部屋で食べるアイスも美味いのは確かなのだが。
 封を切って口に入れれば、甘酸っぱい苺の味が広がった。
「ね、どう?」
「甘い」
「えー、それだけ?」
「まあ、ウマイ」
「わ、楽しみ♪」
 どうやら先に味見をさせられたらしい。
 と、そこに近付いてくる足音。外から帰ってきた弟だ。
「── あ、先輩、いらっしゃい」
「おじゃましてまーす。 あ、譲くんも食べる?」
 弟は俺の口にくわえた容器と、彼女の手にある容器を見比べて、いえ、と申し出を辞退した。
「いいからいいから。 はい、どうぞ。 あ、まだ開けてないからキレイだよ」
 あまりの押しの強さに受け取らざるを得なくなった弟の顔は複雑な表情だ。
「じゃあ……すみません。いただきます」
「どうぞどうぞ」
 ニコニコしながらも、望美の視線が俺の口元に止まったのに気がついた。
 内心で溜息を吐きながら、
「欲しいんだろ?」
「そっ、そんなことは……っ」
 中身が半分になった容器を差し出せば、望美の目がキラリと輝く。
「ほら」
「えへへっ」
 望美は受け取った容器を躊躇いなく口にする。
「んーっ、おいしい!」
 満面の笑み。
 対照的な渋面の弟と目が合った瞬間、彼はふっと視線を逸らした。

【#37】
 生い茂った街路樹の下を歩いていると、「ひゃあっ!?」と望美が妙な悲鳴を上げた。
「やっ、取って! 背中っ!」
 上から落ちてきた何かが背中に潜り込んだのか、自分の襟首を引っ張りながら大騒ぎ。
 普段なら長く艶やかな髪でカバーされているうなじは、ざっくりと編んだいわゆるおさげ髪のせいで無防備だったのだ。
「ちょっと脱ぎゃいいだろ」
「こんなとこで脱げるわけないでしょっ! いいから早く取って!」
 お辞儀するように頭を下げた望美の白いうなじと、浮かした服の下の背中の一部が嫌でも目に入る。
 人が行き交う歩道で、女の背中に手を突っ込むだと?
 とはいえ、取ってやるまで望美は騒ぎ続けるだろう。
 意を決し、渋々ながら言われた通りにする。
 何が入り込んだのかわからないが、服の隙間という狭い空間、手探りで探す他はない。
「── っ」
 彼女の背中を横切る下着に触れた指先が一瞬怯んだ。
「ねえ、見つかった?」
 呑気な声の質問に思わずドキリとする。
 どこまで無防備なのか。
 こっちは『ここでこのホックを外したらどうすんだろうな、こいつ』とか考えているというのに。
 ふいに指先に軽い何かが当たった。
 慎重に摘んで、彼女の背から手を引き抜いた。
「……ほら」
「なーんだ、葉っぱか。虫じゃなくてよかったぁ♪」
 本当に、どこまで無防備なんだろう。

【#38/同題遙か「温」】
「うわー、今日も寒いね」
 冷たい空気に自分自身を抱きすくめるように身を縮ませた。
「温めてやろうか?」
 その口調があまりに意味ありげで。
「……え?」
 不意に手首を掴まれ、ガサリと手に押し付けられた使い捨てカイロ。
「あ」
 見透かすような視線から逃げるように顔を逸らした。

【#39】
 たまたま3人一緒になった帰り道。
「それでね── んきゃっ!?」
 先輩が妙な声を出す。
 前を歩いていた兄が急に立ち止まり、その背中にぶつかったのだ。
「急に止まらないでよ!」
「お前こそちゃんと前見て歩けって」
「もうっ、将臣くんっ!」
 足を速めた兄を、先輩は小走りで追いかけていった。

【#40】
「何見てんだ?」
 と後ろから覗き込まれた。
「絵巻物。朔に借りたの」
「へぇ」
 背中に圧し掛かってくるから、見えないのかと少し身体を傾けた。
 だが圧力はさらに強くなる。
「ちょ、将臣くん!?」
 そのまま重なるように横倒し。
「── 先輩、お昼……兄さん!?」
 耳元で、ちっ、と舌打ちが聞こえた。

【2014/11/03 up】