■お揃いのカップ【将望編】
ある日曜日の午後、勉強の合間の気分転換に喉を潤そうと譲はキッチンに降りてきていた。
一人分の水を入れたやかんを火にかけたちょうどその時、ガチャリと玄関の扉が開く音。
「ただいまー」
朝からどこかへ出かけていた兄が戻ってきた。
「おじゃましまーす」
続けて聞こえてきたのは、隣に住む一つ年上の幼なじみの声。
譲はふと口元を緩め、水を足そうとやかんをコンロから下ろす。
「あー疲れた。お前、ひとつの物を買うのに、何軒店を回るんだよ」
「だって、同じ買うなら気に入ったもの選ばなきゃ嫌なんだもん」
どうやら二人は一緒に出かけていたらしい。
譲はきゅっと引き結んだ唇を緩め、
「お帰り、兄さん。いらっしゃい、先輩。何か飲みますか?」
無理に作った明るい声を出す。
「うん、ココアがいいな♪」
「わかりました、少し待っていてください」
食器棚から彼女専用のカップを取り出す。
昔から交流の活発な両家には、互いの子供たち専用の食器がいくつか置かれているのである。
このカップも、いつからここにあるのか記憶にないくらい馴染んだものだ。
「あ、譲くん、そのカップ、今日持って帰るよ」
「え?」
と、彼女は持っていた紙袋から2つのかたまりを取り出した。
ビニールの緩衝材を丁寧にはがしていく。
中から出てきたのは水色とピンクのマグカップ。
シンプルでありながら、いかにも女子が好みそうな色とデザインだ。
「えへへ、今日からこれ使うんだ♪」
「ったく、3軒目でそれ見つけて、5軒目まで行ってやっぱりそれがいいって戻って……
都合6軒目だぜ? それほどの情熱を注ぐほどのもんか?」
「だって長く使うものだもん、労力は惜しまないよ。
将臣くんにはこういう気持ち、わからないかもねー」
「ニブくて悪かったな」
鼻の頭、さらにはその下の唇までがくっつきそうなほどの距離で二人して不敵な笑みを浮かべている。
「……それ、貸してください。一度洗わないと使えませんから」
「あ、ありがとう、譲くん」
差し出した両手にブルーとピンクのカップがぽんと乗せられる。
「ねえ、今日買った服、着てみてよ」
「はあ? 今度着る時でいいだろ」
「だって将臣くん、試着しないで買うんだもん。着たとこ見てみたいー」
がさごそと紙袋からいろいろと取り出しながらあれこれと言い合う二人を眺めつつ。
譲は持っていたカップのブルーの方を床に叩きつけてやろうかという衝動を必死で堪えるのだった。
〜おしまい〜
【プチあとがき】
「『お揃いのカップで飲み物を飲む』『東かな』を描きor書きましょう。」
(ツイッター診断メーカー「可愛いカップル描いちゃったー」より)
直後やった将望でも同じ結果が出たので、書いてみることにしました。
東かな、将望、龍ゆき、アシュ千があります。
将望における不憫な譲は間違いなくデフォルトです(笑)
【2011/06/03 up/2011/06/08 ブログより移動】