■Catch a cold 将臣

 ── 冬のある日。
 陽のよく当たる暖かい窓際の席で、頬杖ついて外を眺める女子生徒がひとり。
 それを囲むようにして数人の女子生徒が午後の授業が始まるまでの束の間のおしゃべりに花を咲かせていた。
「── だったよね、望美?」
 問いかけに答えることなく、ぼんやりと外を見つめたまま。微かに眉を寄せ、不機嫌を隠そうともしない不遜な態度である。
「……望美? ちょっと望美ってば! もう、あんた今日変だよ?」
 そこまで言われても望美は動かない。
 と、ガラリと勢いよく扉が開き、どこかで身体を動かしてきたらしい男子の一団が教室へ入って来た。
 その中のとある人物を目敏く見つけた女子の一人が大きな声を張り上げた。
「ちょっと有川くん! 望美ってば今日どうしちゃったのよ!」
 呼ばれた将臣は、はあ?と面倒くさそうに返事をして、だるそうに頭を掻きながら近づいてくる。
 彼は望美の座る椅子の横に立つと、窓に向けられた彼女の額へと手を伸ばした。
「あー、やっぱ熱上がってんな。保健室、行くか?」
「………やだ」
 ぶっすりとした口調で拒否する望美。将臣は呆れたように溜息を吐いた。
「やだ、なに !? 望美、風邪ひいてんの !?」
「ああ。こいつ、昔っから体調悪いと超不機嫌だからな」
「知ってるなら、なんで休ませなかったのよ!」
「今朝一応『休むか?』とは聞いたんだがな、本人が休まないって言うんだからしょうがねぇだろ」
「だからってねぇ……」
「ま、最悪早退すりゃいいし、そんときゃタクシーで連れて帰りゃいいし」
「そりゃあそうかもしれないけど…」
 話しながら将臣はやんわりと望美の腕を掴んでいた。ちょうど会話が途切れたのを見計らい、くいっと引っ張った。
「ほら、保健室」
「……やだって言ってるでしょ」
「お前、いつからそんなに勉強好きになったんだ?」
「むぅー……」
「椅子ごと抱えてくぞ」
「う……」
 その光景を想像したのだろう。さすがに恥ずかしいと思ったのか、望美はしぶしぶ立ち上がった。
 だが見た目以上に体調は悪くなっていた。立ったはいいが、ふらりとよろめく。
 もちろん倒れてしまうことはない。将臣が腕を掴んでいたし、よろけた瞬間、しっかりと腰を抱き止めて支えていた。
 そしてそのまま、半ば抱えられ、半ば引きずられるようにして望美は将臣によって保健室へと連行されていったのだった。

「── 有川くんってさ、過保護なんだか放任主義なんだか、よくわかんないよね」
「それよりさ、あの二人が『つきあってない』って方がよくわかんないよ」
「まあ、今に始まったことじゃないけどさ」
「まったく、人騒がせよね〜」
 やりきれない溜息が重なって。
 ぽかぽかと日差しの暖かい昼下がり、午後の授業の開始時間まであと数分──

〜おしまい〜

【プチあとがき】
 えー、体調悪いと不機嫌になるのはあたしです(笑)
 現在長編を再開したせいか、完全に将望脳になっております。
 今回は異世界召喚前のある日、ってことで。

【2010/01/19 up/2010/01/24 拍手お礼より移動】