■約 束
【お題】キスの詰め合わせ(by 恋したくなるお題さま)/09 キスの前にお願い一つ
「…… お前、何ひとりでニヤニヤしてんだ?」
「へ…?」
テーブルの向かい側に座る将臣にふいに話しかけられ、望美は自分が茶碗片手に箸の先をくわえたまま止まっていたことに気がついた。
「あ、うん、えとね、今朝見た夢がなんだかとっても楽しかったんだ」
ふふっ、と思い出し笑いをして、卵焼きに箸を伸ばす。
ひと口かじって、またにっこり。
甘すぎず、辛すぎず、会心の出来に大満足である。
「なんだよ、もったいつけずに話せよ」
漬物をボリボリかじりながら、将臣が先を促す。
望美は茶碗と箸を置き、マグカップのお茶をコクンとひと口、
「前に夢の中で天界に行ったの、覚えてる?」
「あー……攫われた八葉助け出していったら、3世代24人大集合。んで、お前入れて25人でゾロゾロ歩き回って、最終的に27人になってた、っていう、あれか?」
「そうそう。でも今回は26人だったんだよね」
「はぁ?」
「どこに行った、とか、何をした、とかは覚えてないんだけど、みんないるの。でも、将臣くんだけいない── 話題には出るんだけど」
「……へー」
機嫌を損ねた様子で卵焼きを口に放り込む将臣。
以前、白龍によって異世界に召喚された時、離れ離れになってしまった二人。
辿り着いた時空のずれによって敵同士となり、辛く苦しい戦いの中で彼らを繋いでいたのは夢だった。
満ちた月── 望月が二人を繋いでくれていた。
夢の中の教室で将臣が望美に贈った懐中時計は今も彼女の持ち物であり、夢の中のクリスマスパーティでの望美からのプレゼントの目覚まし時計はもちろん今でも将臣の枕元にある。
そんな不思議な夢を望美と共有してきた将臣だから、今回は共有できなかったことが寂しくもあり、夢の中とはいえ自分だけが参加できなかったのが悔しくもあり。
「やだな、なに拗ねてるの?」
思考が表情に出てしまっている将臣を見て、望美はクスクスと笑う。
「バーカ、誰が拗ねて──」
「私は嬉しかったな、将臣くんが出てこなくて」
「は?」
「だって他のみんなには夢の中ででもないと会えないけど、将臣くんとはもう夢で会わなくても大丈夫だよ、って言ってもらえたみたいで、すごく嬉しいんだ」
そう言うと、望美は心から嬉しそうな笑みを浮かべた。
確かに、彼女の言う通りかもしれない。
あの異世界での経験がなければ夢の話なんて単なる雑談にしかならないというのに、共有も出演すらもできなかったというだけで拗ねて── ああ、やっぱり自分は拗ねていたのか、
と将臣はバツの悪さにワシワシと頭を掻く。
「……まぁ、ゆうべは満月じゃなかったしな」
「違うよ── もう離れ離れじゃないからだよ」
とニコリ。
いつか二度と見ることはないと諦めかけたこともある彼女の笑顔と、ど真ん中ストレートな彼女の言葉。
力が抜けるほど当たり前で、力がみなぎるほどに愛おしい。
「── よし、メシ済んだら出かけようぜ。何でも好きなもの奢ってやる」
「えーっ、今はお腹いっぱいだよ !?」
「お前の中では『奢り』と『食い物』は直結か? ……ま、だとしてもしばらくウロウロしてたら腹も減るだろ」
「あ、あはは、そうだね。じゃ、早くご飯済ませちゃおう」
望美は嬉しそうに笑い、置いていた箸を再び取り上げた。
食器を片付けた望美は支度をしてくると自宅へ戻り。
将臣も簡単に支度を済ませ、彼女を待っているのは勝手知ったる隣の家・春日家のリビング。
まるで自宅にいるかのようにソファで寛いでいる。
「お待たせ〜」
戸口におしゃれした望美が姿を現すと、将臣はいつソファから立ち上がったのか記憶もなく彼女を抱きすくめていた。
夢の話をきっかけに、彼女を待つ間にあれこれ考えているうちに募った想いが溢れ出したのかもしれない。
「ま、将臣くんっ !?」
驚いている彼女の反応も無視。
キスをしようと顔を近づける。
「す、ストップ!」
二人の唇の間には、望美の手が挟まっていた。
「……なんで邪魔すんだよ」
「えと、邪魔とかじゃなくて……その前に、ひとつお願いがあるんだけど、いい?」
至近距離で見つめ合いつつ、ほんのり頬を染めた望美がほんの少し首を傾ける。
可愛いおねだりポーズに、将臣もノーとは言えず。
「……どーぞ」
望美は、えへ、とくすぐったそうに笑い、
「あのね………手、つなごうね」
「はぁ? ……まぁ、別にかまわないぜ」
「今日だけじゃなくて── ずっとだよ?」
「ずっと…? あー、心配しなくても、お前がばーさんになったら転ばないように手を引いてやるって」
「その時は将臣くんもおじいちゃんでしょっ! って、そうじゃなくって!」
「ははっ、わかってるって」
それから、将臣は彼女に回した腕に力を込めた。
想いが全身から伝わるように、強く、それでいて優しく彼女を抱きしめる。
彼女の耳に唇を寄せ、直接熱を刻み込むように囁いた。
「二度と── 放しゃしねぇさ」
いつしか将臣の背中に回り、シャツの背中を掴んでいた望美の手に、きゅっと力が込められた。
〜おしまい〜
【プチあとがき】
『夢浮橋』フルコンプ記念!
舞台は現代、夢浮橋経由の十六夜もしくは迷宮ED後、な感じで。
無印将臣EDも絡めちゃったりして。
あ……肝心のちゅーをしていないではないかっ(汗)
夢浮橋は、夢逢瀬がデフォイベントだった将臣の追加イベントで、
他の23葉は壮大なおまけだった、というのがあたしの中の位置付けです(笑)
あ゛あ゛、久しぶりに将臣書いたら、土浦とごっちゃになっちゃってるよ。
ところで……あれ? 譲は? いつでも会えると思うんだが。
でも望美ちゃんの中では異世界の仲間と同じ扱い(笑)
【2008/08/26 up】