■りとるがーる・あふたー 【1:格差拡大?】 将臣

※最終話直後

 惜しむようにほんの少しだけ身体を離して見つめ合う。
 望美は頬をほんのり上気させ、とろんとした潤んだ瞳をしていた。 まるで熱に浮かされた風邪っ引きのようだ── 口にすれば雰囲気ぶち壊しだと怒られてしまいそうな感想が頭をよぎり、将臣は思わず苦笑しそうになった。
 望美の手がすっと伸びてきた。 ひたり、と将臣の頬に添えられる。 愛おしくてたまらない、といった風にゆっくりと撫でながら、ぽってりと赤く熟れた唇が熱い吐息混じりに、将臣くん、と自分の名を紡いだ途端、 まるで全身を電流が走ったかのような恍惚感に将臣は知らず身を震わせた。
「……ん?」
 極力平静を装いながら、続きの言葉を促す。 すると望美は微かに眉をひそめ、
「……………………老けたよね」
「……このシチュエーションでそれを言うか、お前は」
 抱き締めていた腕は脱力してだらりと垂れ、倒れ込むように顎を彼女の肩に乗せて全体重をかけて凭れかかってやる。
「お、重たいよ、将臣くんっ!」
「お前の一言で身体中の力が抜けたんだろうが」
 重さに耐えきれなくなった望美が膝をつき、ぺたんと座り込む。 一緒に沈んでいた将臣も一旦床に腰を下ろし、それから望美の身体を引き寄せて、そのままゴロンと床に転がった。
「もう、痛いじゃない!」
「痛いわけねぇだろ。 俺がクッションになってやったんだから── いててっ」
 ふくれっ面の望美は腹いせとばかりに枕にしている将臣の腕の上でぐりぐりと頭を動かしている。 その意趣返しに将臣は彼女の腰に回した腕にぐっと力を込めて引き寄せた。
「く、苦しいっ」
 先にギブアップしたのは望美の方だった。
「── お前は、あの時のまんまなんだな」
 床に転がり緩く抱き合ったまま、将臣は彼女の顔を覗き込み、しみじみと呟いた。
「将臣くんは……ますます大人っぽくなったね」
「……さっきは『老けた』とか言ってなかったか?」
「だって……あの頃でさえ3年も差があったのに、ますます年の差が開いちゃったんだもん」
「6歳差、か……だが女ってのは若くて綺麗な方がいいんじゃねえのか?」
 口の端を上げてそう言うと、望美は頬を赤く染めてあさっての方向へと視線を泳がせる。
「ま……まあ、そうだけど」
 どうやら『若くて綺麗』という言葉がお気に召したらしい。
「さてと……飯でも食うか。 腹減った」
「うん」
 にこりと笑った望美へと将臣が顔を近づけたその時。
「早く朝食を食べ──」
 スパーンと引き戸を開けて叫びかけた譲が、大きく口を開けたままフリーズした。 ぐりん、と回れ右して、
── てください……冷めますから
 律儀にも消えそうな声で続きを言って、そのまま向こうへ姿を消す。
「あ、あはは……」
「気にすんな。 了承も得ずにいきなり戸を開けた譲が悪い」
 望美の頭の下からすっと腕を抜き、先に立ち上がった将臣が手を差し伸べる。
「ほら、行こうぜ」
「……うん」
 そっと乗せた手をぐいっと引っ張って。
 二人はもう一度顔を見合わせ、微笑み合い、お互いの存在を確認するかのように軽く唇を合わせてから、朝食と弟が待っている部屋へと向かった。

〜おしまい〜

【プチあとがき】
 続くのか?
 続けられるのか?
 先行き不透明ではありますが、一応書いてみました。

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