■果てしなき戦い?
まもなく正午。
高く昇った太陽から降り注ぐ陽射しが、じりじりと肌を焦がす。
頬を伝う汗がぽたりと落ちて、足元の焼けた砂に円を描き、すぐに消えていった。
私── 春日望美は剣を額の前で斜に構え、正面の相手を睨み据えた。
「我こそは白龍の神子っ! 還内府っ、いざ尋常に勝負っ!!」
「お、お前…」
「やあああああぁぁぁっ!!!」
狼狽する還内府に向かって、私は剣を振りかぶりつつ間合いを詰めた。
戦う気がないのか、還内府は私の剣をただ受け流すだけの防戦一方だった。
合わせた剣を押し返すようにして後ろに飛び退り、私は再び間合いを取る。
顎に滴る汗を手の甲で拭き取ると、今度は身体の正面で剣を構え、声を張り上げる。
「どうしたのっ、私が相手では不服かしらっ!」
「そ、そうじゃないが……」
眉間に皺を寄せ、搾り出すように還内府がうめく。
私だって、こんな戦いなんてしたくない。
どうしてこんなことに──。
その時、私の背後にふいに気配が生まれた。
この気配── 大丈夫、敵ではない。
「あのぉ……」
「なにっ!?」
背後からかけられた緊張感のない声に、思わず語勢が強くなる。
その間も、私は剣を構えたまま、目の前の還内府から視線を外さなかった。
間合いを保ったまま、摺り足で横に移動する。
裸足の足の裏に伝わる砂の熱に、痛みすら感じる。
「あのー、望美様…」
「そうじゃないでしょっ!」
「はっ! 龍神の神子殿っ、火急の報せにございますっ!」
おそらく伝令の雑色だろう、背後にいるため姿は見えないが、緊張感に背筋を伸ばしたのがわかった。
「申してみよっ!」
「はっ! 昼餉の支度が整いましてございますっ」
「ご苦労、すぐ参るっ!」
はああああぁぁぁぁ………っ
私と雑色のやり取りに還内府── 将臣くんが大きな溜息を吐きつつ、がっくりとうな垂れる。
「お前なあ……いい加減、それ、やめろよな」
「だって〜」
私は手にしていた剣── 拾った木の枝をぽいっと放り投げ、うーんと背伸びする。
「付き合わされるヤツの身にもなってやれよ」
将臣くんの視線の先には、がっくりと疲れたように肩を落とし歩いていく雑色の後ろ姿。
「もともとは朝ご飯の時に、私のフルーツを将臣くんが取ったのが原因でしょっ! 最後に食べようと思って取っておいたのに」
「それで決闘ごっこかよ。あーあーわかったわかった。俺が悪うございました。………ほら、行くぞ」
「うー」
納得いかないまでも、空腹には勝てず。
さっさと行ってしまおうとする将臣くんを追いかけようと、慌ててわらじを探すと──
波打ち際に脱ぎ捨ててしまっていたのか、私のわらじは波にさらわれて沖へと向かっていた。
落ち延びた平家ゆかりの人たちが生活する集落までは、鬱蒼としたジャングルのケモノ道を通らねばならないのだ。
わらじなしでは足の裏を傷めてしまうのはまちがいない。
「将臣くーーーんっ、わらじ流されちゃったーーーっ!」
私のかけた声に、将臣くんはしょうがねぇなー、とぶつぶつ文句を言いながらも戻ってきてくれた。
「ほら、あれ」
私が指差す先に、真っ青な海の波間に揺られる1足のわらじ。
「しょーがねーなぁ」
やった、取ってきてもらえる♪と心の中で小躍りしていると──
私の身体がふわりと宙に浮いた。
「わっ、な………っ」
「しょーがねーから、運んでやるよ」
将臣くんの思いがけない行動に、思わず顔が赤くなるのがわかった。
それに気づいたのか、将臣くんは意地悪そうに笑いながら、
「今さら、この程度のことで赤くなる仲でもねぇだろうが」
その一言に、私の顔はますます赤味を増す。
それを見られないようにと、私は将臣くんの首にかじりついた。
青い空と白い砂、輝く太陽と── そばには大好きな将臣くん。
少し前までの戦いの日々が嘘のような今の幸せに、私のお腹…もとい、胸はいっぱいになった。
〜おしまい〜
【プチあとがき】
おめーら一体どんな仲なんだよっ、とツッコんでみるテスト。
いや、しょーもないネタですんません。
将臣エンド迎えた瞬間思いついたのがこのネタです。
こんなイタイおねぇちゃんに負けてしまった平家のみなさん、
さぞ口惜しいことでしょう(笑)
ましてや、そんなおねぇちゃんと生活を共にしているなんて(笑)
で、この時代の履物ってわらじでいいんだよね?ね?
もしかして草履?
【2005/07/27 up】