■小ネタツイートLog【その2】 東金

 ツイッター(@yuna_fantasia)小ネタまとめ。

【#11】
 練習用の楽譜を借りたい、と申し出てきたかなでと、アドバイスがてら部室のライブラリを一緒に漁っていた時のことだ。
「── 部長ってほんとに面倒見がいいですよね」
 もちろん部長として部員の面倒を見るのは当然だと心得ているが、ここまで付き合ってやっているのは彼女が『恋人』だからに他ならない。
 ところが彼女本人は鈍すぎて、そのあたりを理解していないらしい。
「前に副部長も『いいお兄ちゃんしてる』って言ってたし。私が部長の妹だったらどうなってただろ…… 『お兄さま、ご一緒にお茶を召し上がりませんか?』とか? わぁ、優雅だなぁ」
 千秋は思わず溜息を吐いた。
 確かに東金家は男ばかりの兄弟で、妹がいたら相当可愛がられただろうが。
 ── それでは自分が困る。
「お前は俺の『恋人』よりも『妹』のほうがよかったっていうのか?」
「そんなこと言ってません。けど、妄想するくらいいいじゃないですか。私、一人っ子だし、『お兄さん』って憧れなんですもん」
 ぷくっと頬を膨らませたかなでが、一転愛らしく小首を傾げてニコリと笑った。
「ねっ、『お兄さま』♥」
「!!」
 『禁断の愛』という言葉がちらりと脳裏をよぎり、なぜかバクバクと暴れ始めた心臓を押さえるのに必死になる千秋だった。

【#12】
 部室のドアを開けかけたら、
「── 部長」
 って小日向ちゃんの声が聞こえたもんやから、思わず手ぇ止めてしもた。
「ぶーちょーうーっ!」
「……うるせぇ。お前は選挙カーのスピーカーか」
「もうっ! 聞こえてるんなら返事してください!」
 そりゃそうや。千秋、意地悪やなぁ。
「── ここには今、俺とお前の二人きりだ。わかるだろ?」
「うー…………………ち……ち…」
「ほら、早く呼べよ」
「ち………ち…………千秋たんっ!」
 ガタタッ!
 ……なんや大きい音したなぁ。何慌てとんの。
「お、お前っ…!」
「ごごごごめんなさいっ! 緊張し過ぎて噛んじゃいましたっ!」
 かたん、と小さな音に続いて数歩の足音。それからしばしの無音──
 この隙間からやと二人の姿が見えへんのがもどかしいわぁ。
「── それはさすがに部室じゃマズイな」
 余所やったらええんか?
「じゃあどこで呼ぶんですかっ! って、噛んだだけですからっ!」
 小日向ちゃんの声がどことなくくぐもってたから、どういう状況かはピンときた。
 ……今入ったら絶対あかんわ。
 そぉっと扉を閉めて。
 千秋、小日向ちゃんにメロメロやなぁ。
 あー全身むず痒うてたまらんわ。

【#13】
「── ふふっ」
 何の脈絡もなく小さな笑みを零した彼女。
「思い出し笑いするとは、妙なことでも考えてたか?」
「違いますよ、嬉しいことを思い出したんです」
 どうせ誰かにスイーツでも奢ってもらった、程度のことだろう。
 それはそれで腹が立つが。
「今日、聞いたんです。最近部長のヴァイオリンの音が優しくなった、って」
「……は?」
 指摘されてドキリとした。そこまで表に出したつもりはなかったのに。
 彼女はまた、うふふ、と嬉しそうに笑う。
「なんでお前がそこまで喜ぶんだよ」
「だって──」
 言いかけた言葉を遮るように、引き寄せた彼女の顔をぐっと自分の胸に押しつけた。
「ああそうだよ── お前のせいだ。責任取れよ」

【#14】(神南)
「── お前ら、何をしている…?」
 険しい顔で東金がそう呟いたのは、デュオを組ませた執事的後輩と新入部員が向かい合い、両手をぴたりとくっつけているのを見たからだった。
「あっ、部長!」
 駆け寄ってきた彼女が、何やら紙を突き出してきた。
 それは「アメリカの思い出」の楽譜だった。
「……それが、どうした?」
「だから、曲の解釈を深めようと思って、やってたんです」
「……何をだ」
「もちろん、『アルプス一万尺』です!」
「はぁっ!?」
「部長と副部長もご一緒にいかがですか?」
 ふと見れば、芹沢がげんなりとこめかみを押さえている。
 どうやら無理矢理付き合わされていたらしい。
「ハッ、そんな子供の遊びに付き合ってられるか── って、おい蓬生!」
 ア〜ル〜プ〜ス〜いちまんじゃ〜く〜♪
 楽しげに彼女と手遊びを始めた副部長に呆れて肩をすくめた。

【#15】
「── 困りますっ!」
 自室にCDを取りに行き、戻ったところでリビングから切羽詰まったような彼女の声がした。
「何を拒む必要がある?」
 続けて聞こえてきたのは、まだまだ関係正常化したとは言い切れない父親の声。
 慌ててリビングに駆け込んだ。
「おいクソ親父! 何血迷ったことしてやがる!」
 彼女を背中に庇い、父の顔を睨めつけた。
「お前には関係のないことだ。所有権は私にある」
「ハッ、まさか息子の恋人に手を出すような色ボケジジイだとは思ってなかったぜ」
「ち、違いますっ! 部長っ、違うんですってば!」
 後ろからグイグイと服を引っ張られた。
 あれです、と彼女が指差したのは壁── に飾られたヴァイオリンの数々。
「お父様が、どれでも好きなのを貸してくださるって……」
「………は?」
「こんな高級な楽器をお借りしたら、私怖くて外を歩けませんっ!」
 父の口元が笑みの形に歪んだ。
 顔が一気に熱くなるのを感じて、思わず視線を逸らす。
「うぅ、どうしましょう……」
「……ストラドでもガルネリでも好きなの持ってけよ」
「無理ですぅぅぅっ!」
 今にも泣き出しそうな彼女には時々名器たちを弾きに東金家を訪れるよう提案され、どうにか丸く収まった。

【#16】
「千秋さんって、王様みたいですよね」
「いばりくさってる、とでも言いてぇのか?」
「違います、いつも堂々としてるって意味です」
「お前も堂々としてりゃいいだろ」
「そうですね……じゃあ、私は女王様やります!」
「やります、って……まあいい、やってみろよ」
「はい! では……『椅子になりなさい』!」
「…………」
「女王様を無視するとは、この無礼者ー!」
「…………」
「むぅ、早く椅子に──」
「…………」
「いす……」
「…………」
「言うこと聞いてくださ── きゃっ!?」
 彼女の腕を引っ張ってみた。
「── こういうことだろ?」
 膝の上に座った彼女を抱き締めつつ、囁きかけたその耳は真っ赤に染まっていた。

【#17】
「ちょっと見てもいいですか?」
 かなでが足を止めたのは一軒の花屋の前。
 楽しげに彼女が見ているのは、ズラリと並んだサボテンの鉢植えだ。
「サボテンって可愛いですよね。私、部屋にいくつか置いてるんですけど」
「どうせ飾るなら、もっと派手な花にしろよ。いくらでも買ってやるぜ?」
 かなでは笑いながら小さく首を振り、
「花言葉が素敵なんですよ」
「?」
 眉根を微かに寄せて、答えを促した。
 すると彼女は人差し指をピッと立てて、
「『秘めた熱意』、です!」
 無駄に自慢げなのがおかしくて、思わず吹き出してしまった。
「ハハッ、秘めっぱなしにならなきゃいいけどな」
 秘めるどころか、相当な熱意の持ち主であることは知っているけれど。
 ふと、ピンク色の可愛らしい花をつけたサボテンが目に止まった。
 手に取った鉢に挿してある品種名の書かれた札を見て、思わずニヤリ。
 彼女が口にしたものとは別の花言葉が書いてあった。
「これも部屋に並べておけよ」
「え、いいんですか…?」
「ああ。絶対に枯らすなよ」
 札がよく見えるようにして鉢を渡す。
 気づいた彼女が、小さく「あっ」と声を上げた。
「大事に育てますっ!」
 札に書かれていた花言葉は── 『枯れない愛』。

【#18】
「ライヴの時、千秋さんと副部長が背中合わせで弾いてるの、すごくかっこいいです! 相手を信頼してるって感じで!」
「そうか? まあ、信頼は当然として、楽器を持った上でのパフォーマンスだと、ああなるのは仕方ないってのが大きいがな」
「私もあれ、やってみたいです! 背中合わせ!」
「俺とか?」
「はい、もちろんです!」
「……断る。お前とは絶対やらねえ」
「そんなぁ……。私の演奏だと信頼できませんか?」
「バーカ、そんなんじゃねぇよ。背中合わせだと、お前を抱き締められねぇだろうが」

【#19】
「誰にも渡しませんっ!」
 かなでは必死の形相で千秋の手を握り締める。
「ハラショーでももう手に入らない飴の最後の1個なんですから!」
「── ハッ、なら力ずくで取り返してみるんだな」
 千秋はニヤリと笑い、愕然とするかなでの目の前で飴を口の中に放り込んだ。

【#20】
 昼食後のひとときを過ごして学校に戻る途中だった。
「……は?」
 聞き間違いでなければ、彼女はこう言ったのだ。
 ── 東金部長って意外と乙女チックなんですね、と。
「なんでそうなる?」
 隣でにこにこと見上げてくる彼女は、さらににっこりと笑って、
「だって連れて行ってくれる場所が、願掛けとか恋愛成就とか。ほら、学校の『マーメイドさん』にも詳しかったし」
「マーメイドさんはともかく……観光地ってのはそういうので客を集めるんだから仕方ねぇだろ。そもそも田舎から出てきたお前に神戸の良さを── って、おい小日向っ!?」
 気が付けば、ついさっきまで隣にあったはずの彼女の姿がない。
 すると後ろから、
「ぶちょー! これ美味しそうですー!」
 満面の笑みで大きく手を振って、店先を指差す嬉しそうな彼女。
「……お前はまだ色気より食い気か」
 溜息混じりに苦笑しつつ。
「急に立ち止まられると困るし……手はつないでおかねぇとな」
 言い訳めいた呟きを口に乗せ、彼女がいる店先へと戻っていった。

【2014/11/03 up】