■小ネタツイートLog【その1】
現在ツイッター(@yuna_fantasia)にて小ネタツイート垂れ流し中。
1日1ネタが目標ですが、ネタが降ってこなければおやすみ。
そんな自由な感じで。
そのログ的にちょこっとずつまとめていきます。
新ネタは上記アカウントにてご覧ください。
【#01】
手にした紙を難しい顔で睨んでいるかなで。
千秋はそっと近づき、手元を覗き込む。
「どうした?」
「あ…えと、曲想が…」
どうやら掴みあぐねているらしい。
すっと頬に手を当てた。
きょとんとする彼女に素早く口づける。
「解ったか?」
「ふ…ふぁい…」
紙に刻まれた旋律は『ラヴァーズ・コンチェルト』。
【#02】
せっかく神戸から来てやったというのに、たまたま遭遇した路上演奏のヴァイオリンに釘付けになっているのは許せない。
強引に腕を引っ張り、入った細い路地の壁に彼女の背を押し付けた。
驚きに目を丸くした彼女は、一転反抗的に睨んでくる。
直後、頬に伸びてきた手に引き寄せられた。
唇を離した彼女はさっきの不機嫌はどこへやら、「続き、聞きに行きましょう」とにっこり。
どうやらすべてお見通しだったらしい。
【#03】
神戸から到着した千秋が駅の前でジリジリとしながら時計を見ること既に20分。
到着時刻はきっちり知らせてあるというのに。
もう何度目かわからない時間の確認のため腕を上げたその時、
「ごめんなさいっ! 遅くなりましたっ!」
パタパタと駆け込んでくる姿に思わず腕を広げると、彼女は胸に飛び込むようにして足を止め、片腕に掴まって乱れた息を懸命に整えている。
「お弁当……作ってたら……時間過ぎててっ……」
見れば彼女の手には重そうなバスケット。
なるほど、今日はどんな高級レストランにも勝るランチタイムが過ごせそうだ。
思わず緩む口元を無理矢理引き締め、
「まあいい、俺を待たせた罰として──」
顔を上げた彼女の口元がひくりと引きつった。
「── 今日は一日、俺を楽しませてくれるんだろうな?」
「はい、もちろんです!」
顔いっぱいに広がる嬉しそうな笑みに満足して、彼女の肩を抱いて公園へ向けて歩き出した。
【#04】
横浜から神戸へ戻る新幹線の中、東金は友人のバッグに不似合いなものが突っ込んであるのに気がついた。
「おい蓬生、それはなんだ?」
「ああ、これ? あの子にもろたんよ」
バッグから抜き放ち、柄の端のレバーを握れば、ガシャコンガシャコンと音がする。
昔懐かしのマジックハンドだ。
「……小日向か?」
「せや。あと籐の枕もくれてな。気が利くなあ、あの子。俺のこと捕まえて添い寝したい、いう気持ちの表れやな」
もちろん土岐は東金と彼女の関係について知った上で、わざと言っているのは解っているのだが。
それでも東金にとっては気分のいいものではない。
「ハッ、それを言うなら、俺とはバススピーカーで音楽を聞きながら一緒に風呂に入り、サマーストールで俺を縛りつけておきたい、ってことになるぜ?
あいつの独占欲の強さの表れだな。可愛いじゃねぇか」
「千秋……ストールの使い方、間違うてるわ。それより、縛りつけるんやったらネックレスとかとちゃうん?」
東金はしばし考えた後、ニヤリと口の端を上げた。
「── いい考えだ、蓬生」
そして神戸に着いたその足で、東金はいそいそと宝石店へと向かうのだった。
【#05】
ラウンジに足を踏み入れると、奥の椅子にかなでがいた。
膝の上に広げた楽譜を睨んでいたかと思えば、宙に視線を彷徨わせたり。
恐らく曲想を練っているのだろう。
こんな時に声をかけて、せっかくの努力を無駄にさせるつもりはない。
そっと立ち去ろうとしたその時、彼女の顔がぱっと明るくなった。
楽譜を閉じて、すっと立ち上がる。
ふと目が合った。
「……あ」
「決めたんだな?」
「はい!」
「どういう風に仕上げるか楽しみだ。一番最初は俺に披露しろよ」
「はい、お昼を楽しみにしててください!」
「ん? ……昼?」
「明日のお弁当、鱒寿司作りますから!」
お前が頭を悩ませていたのは音楽じゃなくて弁当かっ!?
── すかさず入れたようとしたツッコミは、不覚にも口の中に滲んできた唾と一緒にゴクリと飲み込むより他なかったのである。
【#06】(神南)
寮に戻ってきた二人の前を横切るエプロン姿。
「あ、お帰りなさい」
ニコリと笑って出迎えてくれる。
「ええなあ、小日向ちゃんのエプロン姿。よう似合うてるよ」
「あ、ありがとうございます。今、明日のお弁当の下ごしらえしてたんです」
「へぇ、それは楽しみやな。なあ、ちあ……き?」
横を見れば、東金は小難しい顔で考え込んでいた。
土岐はふっと微笑んで、
「── 『お帰りなさい。ご飯にします? それともお風呂?』」
「……蓬生、俺の心の中を勝手に読むんじゃねえ」
「なんや、ほんまにそんなこと考えてたん? なら最後に『それともワ・タ・シ?』もつくんやろな」
「やかましいわっ!」
最後だけ関西弁で叫ぶと、機嫌を損ねたらしい東金は足音高く部屋へ戻っていった。
「あ、あのっ」
「ああ、あんたは気にせんでええんよ」
土岐はおろおろしているかなでの頭を軽く撫で、東金の後を追って部屋へ向かう。
あの程度でヘソ曲げてるようじゃ千秋もまだまだやなぁ、とくすくす笑いながら。
【#07】
「千秋……それが小日向ちゃんへの土産なん…?」
「ああ、どれにするかな」
週末は彼女の待つ横浜へ行くと言っていた友人が足を運んだのはDVD売り場。
「映画観たいんやったら、映画館に連れてったらええんちゃうん?」
「それじゃ意味がねぇんだよ」
買うDVDを決めかねていた東金は通りかかった店員を呼び止めた。
「── この中で、思わず何かにしがみつきたくなるほど怖いホラー映画はどれだ?」
── あー、なるほど、そういうことか。
いじめっ子の顔で嬉々として店員の説明にを聞いている友人を横目で見ながら、
「……小日向ちゃんもかわいそうになぁ」
容易に浮かぶ泣き顔の少女をひたすら気の毒に思う土岐だった。
【#08】
昼食を終え、練習を再開する。
ふと見れば調弦する彼女が欠伸を噛み殺しているのに気がついた。
「またか……おい小日向、俺の──」
目を見ろ、と続けるまでもなく、彼女はじっと見つめてきた。
気合を入れるべく、強い眼光を湛えて睨むように見つめ返す。
彼女はさっきの欠伸でまだ少し潤んだ目をぱちぱちと瞬かせて。
それから僅かに首を傾げて、ふわりと微笑んだ。
少しはにかんだような、それはそれは満ち足りた笑み。
「っ……!」
東金は思わず目を逸らした。
その笑みは愛器にその名を付けた毒よりも更に猛毒で、じわりじわりと心を甘く蝕んでいるのだ。
気合を入れるどころか、抱き寄せてしまいそうになった手で自分の前髪をくしゃりと掴み、
「……なんでこう可愛いんだ、くそっ」
自分らしくない自分と熱い頬をささやかな悪態で誤魔化して。
さて、この責任はどう取ってもらおうか──
ニッ、と不敵な笑みを口元に浮かべ、
「── さあ、始めるぜ」
ファイナルで彼女が咲かせる大輪の花を思い描き、特訓を開始するのだった。
【#09】
「はぁ〜くわばらくわばら」
「── 副部長、何かあったのですか?」
逃げてきたところで芹沢に声をかけられた。
「ん、あれ見てみ?
とばっちり食らいたないんやったら、今は近づかんほうがええよ」
二人して見やった先に、不機嫌丸出しの東金千秋の姿があった。
「ああ、なるほど── あ」
芹沢が声を上げたのも無理はない。
無謀にも、恐れ知らずの勇者が東金に近づいたのだ。
勇者は東金の不機嫌をものともせず、彼の手をそっと持ち上げ、ポケットから出した何かをそっと彼の手のひらに乗せた。
「── 出た! 小日向ちゃんの必殺アメちゃん攻撃!」
東金は口の中に放り込んだ飴をしばし味わい、
「── うまい。この前のとは違う味だな」
「はい、新発売なんです」
「ハハッ、お前はうまい飴を探してくる名人だな」
笑って答える東金の顔にさっきまでの不機嫌さは微塵もない。
「あ〜あ、デレデレやな……千秋、完全に小日向ちゃんに餌付けされてしもたなぁ。
俺も今度、スイーツで小日向ちゃんを餌付けしたろかな」
「……部長に怒られますよ」
溜息を吐いた芹沢が、和やかに会話を続ける二人の元へとティーセットを運んでいく。
「── 部長、今日の茶葉は何にいたしましょうか?
小日向さんのお好きそうな茶菓子もご用意してありますよ」
── 睦ちゃん、あんたも小日向ちゃんの餌付け狙うてるやないの。
土岐は溜息混じりの苦笑を漏らした。
【#10】
「── 本当に見事な手つきですね」
誉められて若干得意げにフライパンを振るのは東金千秋だった。
「やっぱり食事って大事だし……これなら共働きでも安心ですね♪」
隣でニコニコと楽しそうに使い終わった調理器具を洗っていくかなで。
「……おい、『共働き』の意味を解って言ってんのか?」
「もちろんで…す………あれ?」
水の流れる音と野菜が炒められる音をBGMに見つめ合うことしばし──
自分が今、小さなアパートで生活を始めた新婚さんのような状況であることに気づいたかなでの頬がぽっと赤く染まる。
それを見た千秋がモーツァルトを口ずさみながら上機嫌で振ったフライパンの中で野菜たちが楽しげに踊った。
【2014/11/03 up】