■ワンシーンビフォアクリスマス【東金編】 東金

「千秋さん、国際郵便の書き方を教えてください」
 少し気の早いケーキ屋が赤と緑のクリスマスカラーのリボンで飾ってくれた箱を土産に菩提樹寮を訪れた東金を前に、喜色満面のかなでは唐突にそう言った。
「……なんだ、お前、海外に知り合いでもいるのか?」
「はい、よく知ってる人です── 会ったことはないけど」
「はぁ?」
 彼女の意味不明な言葉に首を傾げる。 会ったこともないのによく知っているとは、どういうことだろう?
 と、かなではくすくすと楽しそうに笑い始めた。
「── 知ってますか?  フィンランドには本物のサンタさんが住んでるんですよ」

 確かにそういう団体があることは知っている。 手紙を受け付けて返事を出したり、或いはサンタの出張サービスまでやっているらしい。
 だが、それはサンタクロースの存在をまだ信じている小さな子供たちのためのはずだ。
 陽の当たる暖かなラウンジで、買ってきたケーキとかなでの淹れた紅茶で久し振りのティータイムが始まった。
「それでー」
 かなではポケットから小さなメモ帳と取り出し、ペンを構えた。
「サンタさんにプレゼントのリクエストをしようと思うんですけど── ついでに千秋さんのリクエストも書いてあげます」
 えっへん、と無意味に胸を張るかなで。 彼女にしては珍しい恩着せがましい物言いは、総じて可愛いのだけれどほんの少しだけカチンとくる。
 クリスマスプレゼントを選ぶためのリサーチだということが見え見えだ。
 さてどう反撃してやろうか、と考えた東金はケーキの箱を飾っていたリボンに目を付けた。 かなでが綺麗に巻き取っていたそれをひらりと解き、彼女の首にひょいとかける。 きょとんとした顔に吹き出しそうになりながらも、器用な手つきで蝶々結びを作った。 リボンのチョーカーの出来上がりだ。
 かなではくるんとカールしたリボンの端を摘まみ上げて首を傾げる。
「あのぉ……これは……?」
「俺へのプレゼントはここにあるから、サンタへ手紙を書く必要はないぜ」
「へ……?  プレゼントって……私?」
「他に何がある?」
 にやり、と意味ありげに口の端を吊り上げる。
 ところが、真っ赤になって慌て出すと思った彼女は、不満そうに眉をひそめたのである。
「そんな……安上がりな」
「自分で言うか」
 彼女は自分の価値をわかっていない。 東金にとって彼女はどんなに高価な宝石よりも輝きを放っている唯一無二の存在だというのに。 思わずツッコミを入れてしまったではないか。
「……でもいつもプレゼントとかお土産とか、私ばっかり貰ってるのに……ああでも『あれが欲しい』とか言われた品物が超高いものだったら買えないし……分割OKとかだったらいけるかも──」
「おい、サンタにリクエストするんじゃなかったのか」
 まだブツブツ呟いている彼女に東金の声は届いていなかった。 大幅に筋違いだとは解かっているが、サンタクロースに、いやクリスマスというイベント自体に嫉妬の思いが湧き上がる。
 彼女の意識を自分へと向けるべく実力行使に出ようと東金が椅子から腰を浮かした時だった。
「── そうだ!」
 かなではパチンと手を叩いた。 その顔は晴れやかにキラキラと輝いている。
「だったら、クリスマスは美味しいご飯を作りますね!  私が神戸に行きましょうか?  それとも千秋さんが横浜に来てくれますか?」
 かなでの無垢な笑みに東金の身体から力が抜けて、ぺたんと椅子に座り込んだ。 意地悪してやろうと思った毒気までがすっかり抜け落ちてしまっていた。
 考えておいてくださいね、とニコリと笑い、かなではケーキを一口頬張って、おいしい!と幸せそうに笑った。
 ── まあ良しとするか。 クリスマスの約束をした、ということは、『かなで=プレゼント』というのもあながち間違いではないだろうから。
 東金は自嘲めいた苦笑を浮かべ、彼女の淹れてくれた美味しい紅茶を一口啜った。

〜おしまい〜

【プチあとがき】
 クリスマスだなーと思ったらなんとなく浮かんだネタ。
 タイトルはもちろん「ナイトメアビフォアクリスマス」をモジってみた(笑)

【2010/12/17 up/2010/12/27 拍手お礼より移動】