■王子様とお姫様 東金

 神戸へ遊びに行ったかなで。
 東金の自宅に招かれ、アルバムを見せてもらっていた。
「わぁ……ちっちゃい千秋さんだぁ……可愛い〜」
 物心つく前の無防備な姿を見られるのはむず痒い思いだが、変に反応を返すのも男らしくない気がして放っておく。 そもそも「アルバム見たいです」と言い出した彼女にアルバムを差し出したのは自分自身なのだから。
「あっ、これ可愛いっ! いやん、可愛すぎますっ!」
 やけに過剰反応を示す彼女は一体どの写真を見ているのか、と手元を覗き込む。
 それは幼稚園のおゆうぎ室のステージに立つ、幼き自分の姿。
 無駄に大きな襟のついた提灯袖のブラウスに赤いベスト、こんもりふっくら紺色のかぼちゃパンツに白いタイツ。 頭に大きな羽飾りのついた広い鍔の帽子を乗せ、腰にはおもちゃの剣を差している。 極めつけは白い馬── の頭に棒がついているもの── にまたがり、誇らしげに手綱を握っていた。
 さすがにこれはいくらなんでも恥ずかしすぎる。
「っ! も、もういいだろっ!」
「えーっ、いやですー、王子様な千秋さん、まだ見たいですー!」
 取り返そうとするものの、意外に早く反応したかなでがくるりと背を向けてアルバムを死守する。
「あ、隣にいるお姫様、可愛いな……なんかちょっと嫉妬しちゃう……」
 ふわりと裾の広がったピンクのドレス姿の子供の顔をピンッと指ではじくかなで。
 そのしぐさの可愛らしさは名も知らぬ幼稚園児に向けられた可愛い嫉妬心と相まって、東金のアルバム奪還作戦の手を緩めさせた。
 ── ん? お姫様は確か……
「あれ? このお姫様……」
 東金が過去の記憶に思いを馳せるとほぼ同時、かなでが不思議そうな声を上げた。
「ああ、それは蓬生だ」
「え……ええっ!? この可愛いお姫様、蓬生さんなんですかっ !?」
 えーっ、きゃーっ、可愛い!と興奮する彼女を見ていると、なぜかムカついてきた。
 実力行使、彼女の手からアルバムをぐいっと抜き取り、床へ放り投げる。むぎゅっと柔らかな頬を両手で挟み込んで強引に自分の方へ向けた。
 昔の写真とはいえ、彼女の興味が自分から他の人間へと移った途端に苛立つなんて。
「── お前は俺だけ見てればいいんだよ」
 東金は抗議しようと開きかけた彼女の唇を塞ぐ。彼女の頭の中が、自分のことだけでいっぱいになってしまえばいい、と思いながら。

〜おしまい〜

【プチあとがき】
 突発的に始めたブログSS。
 主についったでのつぶやきが元になると思います。
 ゆな@管理人の琴線に触れるようなリプライを頂けると、
 こうやってなんか書くかもしれません(笑)

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