■『大好き』のしるし 東金

☆サイト開設6周年記念リクエスト大会☆
あっき〜さまからのリクエスト『東金ファミリー(with子供)話』

 ふわふわと心地よい場所から浮上してゆっくりと目を開けると、まだ閉められたカーテンに外の眩い陽光が滲んでいた。 きっともう太陽は空の高い位置まで昇っているのだろうが、再び目を閉じればすぐにでも眠りに落ちてしまいそうだ。 ヒュプノスの誘惑には勝てなくて、ゆるゆると瞼が閉じていく。
「── ママ〜、パパまだおねんねしてるのー?」
 扉一枚隔てたリビングから聞こえてくる拗ねたような声に、目を閉じたまま頬を緩ませる。
「パパはね、夜遅くまでお仕事たくさん頑張ってたの。 今日はお休みだし、もう少し寝かせておいてあげましょうね」
 優しく諭す柔らかい声がじんわりと胸に染みてきて、幸せな気分で目を開いた。
 ── 今日もなかなか良い目覚めだ。
 もそもそとベッドから降りた東金千秋はぐんと腕を伸ばして大きく背伸びをすると、愛する家族の待つリビングへと向かった。

「あ、パパだ!」
 小さな姿がじゃれつく子犬のようにパジャマ姿の足にしがみついてくる。 ぐいっと大きく後ろに頭を逸らして見上げてくる大きな瞳がキラリと輝いた。
「『おそよう』、パパ」
 どこで覚えてきたのか、ちくりと皮肉ってにっこり笑うのは贔屓目でなく可愛らしい少女。 千秋は思わず苦笑しつつ、小さな頭をぐしぐしと掻き回す。
「……『おはよう』だろう? 歌音(かのん)」
 この小さな少女は千秋の大切な宝物のひとつ── 愛する妻・かなでとの間に授かった愛娘。 つい最近3歳になったばかりの可愛い盛りだ。 カノン様式の音楽のように幸せの旋律が絶え間なく訪れるように、という願いに『音を歌わせる』という漢字を当てはめて『歌音』と名付けられた彼女の容姿は母親にそっくりで、 母よりほんの少し目が垂れているところは間違いなく父親の遺伝子を受け継いでいる。
「── ごめんなさい、起こしちゃいましたか?」
 申し訳なさそうな笑みを浮かべて、かなでがよたよたと近付いてきた。 身体をそっと支えてやって、額に軽く口付ける。
「いや、せっかくの休日なのに、いつまでも寝てちゃ勿体ないからな。 天気もいいようだし、外を歩くなら付き合うぜ」
 そう言って彼女のまぁるいお腹をそっと撫でる。 あと2ヶ月もすれば千秋にはもうひとつ宝物が増えるのだ。 これを『幸せ』と言わずして、何と表現すればいいのだろう。
「はい。じゃあ少し早目にお昼を食べて、公園に行ってみましょうか」
 出会った頃とほとんど変わりない愛らしい顔にぱぁっと笑みがほころんだ。
 千秋は吸い寄せられるようにかなでの柔らかい頬に唇を寄せる。 くすぐったそうに首を竦めた彼女に、着替えてくる、と言い置いて、洗面所へ顔を洗いに行った。

「── ねえママ、どうしてパパはいつもママに『ちゅっ』ってするの?」
 そんな可愛い質問が聞こえてきたのは、千秋がさっぱりした顔をふかふかのタオルに埋めた時。
「えと、それはね……『大好き』っていうしるし、かな」
「えーっ、じゃあパパはかのんのこと、だいすきじゃないのぉ !?」
 娘の声はいかにもショックを受けたような悲しい声だ。
 指摘されてみればそうかもしれない。
 かなでにキスをするのは千秋にとって呼吸をするのと同じ、ごく当たり前の行動で。
 歌音のことは抱き締めたり頬ずりしたり。 もちろん赤ちゃんの頃のぷくぷくした頬には数知れずキスしたけれど、物心つく前のことだから彼女の記憶に残っていないのだろう。
 そっとリビングに戻ると、何と答えたらいいものかと思案に暮れるかなでと視線が合った。 何か言おうと口を開きかけた彼女を小さく首を振って制止する。
 ねえママ!と地団太を踏む歌音の背後から忍び寄り、軽い身体をひょいっと持ち上げた。 腕に抱えて涙をいっぱい目に溜めて今にも泣き出しそうな顔の何ヶ所にも、わざと音を立ててキスをする。
「── 『大好き』のしるし、だ」
 何が起きたのかわからず目をまんまるく見開いている可愛い娘の顔がみるみる笑顔になっていく。
「パパだいすきーっ!」
 お返しとばかりにぶちゅっと頬にキスして、がしっと首に抱きついてきた小さな身体をぎゅっと抱き締める。 ふと気づけば、かなでが口元を押さえて必死に笑いを我慢していた。
「……ふふっ、親馬鹿」
 ぼそっと呟かれた言葉に千秋は盛大に顔をしかめるのだった。

 ── 数日後。
「ねえねえ、どうしてパパはママのおくちに『ちゅっ』ってするのに、かのんにはほっぺなの?」
「「え゛」」

〜おしまい〜

【プチあとがき】
 さて、東金ファミリー話です。
 『第2子ご懐妊中』というご要望だったのでそのように。
 娘ちゃんを捏造しました。名前考えるの楽しかった(笑)
 ちょっと短めですが、愛はこもってます!
 こいつら一生家族でらぶらぶしてればいいよ(笑)
 あっき〜さま、リクエストありがとうございました♪

【2010/10/10 up】