■東かなで五十音【か行】 東金

 【カリスマ】
 部室の一画に、ほんのりピンク色のオーラを振り撒きながらケータイを握り締める男がいた。
 時折楽しそうな笑い声が聞こえるところを見ると、話がはずんでいるようだ。
「── あっ、ちょ、ちょっと待てっ!  頼むから切るなっ!  おいっ!」
 急に大声を上げたと思ったら、呆然と携帯を見つめていた。
 いつもの調子でからかいすぎて、相手の機嫌を損ねてしまったのだろう。
 がくん、と項垂れる彼は、夏の横浜に『カリスマ性』を置き忘れてきたらしい。

(オレ様も恋をすればただの男の子)

*  *  *  *  *

 【休息】
 涼しい木陰でランチタイム。
 木の幹に凭れて他愛のない会話を楽しんでいるうち、ぽてりと肩に重みがかかる。
 すぅすぅと小さな寝息を立てるあどけない寝顔。
 この夏を小さな身体でずっと走り続けている彼女。
 疲れもピークに違いない。
 おまけに今は満腹。
 そっと抱き寄せ、つむじの辺りに口付けて。
 目を閉じれば、すぐそこで睡魔がおいでおいでと手招きしていた。
 今はふたりでこの穏やかな時間に身を委ねよう。
 集合時間に遅れた彼女を、仲間の誰かが探しに来るまで。

(ハルに見つかって『破廉恥です!』と怒られてるといい)

*  *  *  *  *

 【苦悩】
「何か悩みでもあるん?」
 珍しく眉間に皺を寄せて物思いに耽っている親友に、見るに見かねて声をかけた。
「── どんな手を使えば、素直に神戸行きをOKさせられると思う?」
 ぽつりと呟く彼の目は、紛れもなく本気らしい。
「……警察沙汰になるようなことだけはやめときや」
「── じゃあ、あの手は使えねぇな……」
 刑務所に差し入れ持って面会に、なんて日が来なければいいけれど。

(ほんとに何かやらかしそうで怖い(笑))

*  *  *  *  *

 【結婚】
 神戸にやって来た彼女をあちこち案内して。
 今日訪れたのは神南高校。
 生徒数2000人超を収容する巨大な校舎に目を丸くする彼女を引っ張って行ったのは、敷地内にひっそりと佇むレンガ造りの建物。
「うわ……学校にチャペルがあるって珍しいですね」
「星奏の森の広場も珍しいけどな」
 優美に佇むマリア像、美しく光を彩るステンドグラス。
 荘厳な雰囲気に飲み込まれたかのように息を飲む彼女にくすりと笑みを漏らし。
「── さて、俺たちはいつにする?」
「………はい?」
「チャペルでするといえば結婚式だろうが」
「え……ええっ !?  そ、そんなの、まだ早すぎますっ!」
「『まだ』ってことは、その気がないわけじゃないんだな?」
 ニヤリと笑って、真っ赤になった彼女を抱き寄せる。
 幾多のOB・OGが永遠の愛を誓ったこの場所で、いつかは自分たちも──

(メモリアルブックより)

*  *  *  *  *

 【コンクール】
 鮮やかに大輪の花が咲き誇るのを目の当たりにした。
 他人と演奏技術を競い、順位をつけられる場でしかなかったコンクールが、魔法をかけられたかのように愛おしく思えてくる。
 すべてはここで彼女と出会うため。
 10日ほど前までの自分なら『馬鹿馬鹿しい』と一蹴するような青臭い甘酸っぱさが、なぜか心地よかった。

(セミファイナルの時点でもうメロメロ)

【プチあとがき】
 すでにネタ切れ(汗)

【2010/04/20 up/2010/04/25 拍手お礼より移動】