■東かなで五十音【あ行】 東金

 【甘える】
 私のステキな彼氏は、私を抱き締めるのが好きらしい。
 ……まあ、それだけじゃないんだけど。
 隣を歩く時はたいてい手をつないでるし、
(つないでない時、彼の手は私の腰に回されてたりする)
 二人きりになるとすぐにキスしてくるし。
(たまに人がいてもお構いなしに迫ってくるのは恥ずかしすぎるからやめてほしい)
 今日も私を抱き締めて、頭のてっぺんにすりすりと頬ずりしてる。
 いつもはオレ様な彼だけど、こんな仕草はなんだか可愛い。
「── あ」
「……なんだ?」
「もしかして……あまえんぼ?」
「……お前限定でな」
 笑いながらの声はとても優しい。
 頻繁に会える私たちじゃないから、今日は私も思い切り甘えてみよう。

(東金さんの思うツボ(笑))

*  *  *  *  *

 【意地悪】
「地味子」
 私を呼ぶ意地悪な声。
「お前の演奏には『花』がない」
 出会って早々言われた言葉はグサリと胸に突き刺さった。
 けれどそれは紛れもない事実。
 私の『花』を探す日々が過ぎていくうち、彼の意地悪な言葉の裏に違う何かが見えてきた。
『お前なら咲かせられるだろう?』
 勝手な思い込みかもしれない。
 けれど、舞台の上で戦った後で私の『花』を認めてもらえた時──
 胸に刺さった冷たい棘は別の温かい何かに形を変えて、しっかりと心に根ざしていた。

(彼なりの励まし)

*  *  *  *  *

 【うわさ】
 夏休みが明けた登校初日の朝、目を吊り上げた女子の団体が押し寄せてきた。
「ちょっと芹沢くんっ!  千秋さまが横浜でカノジョ作ってきたってホントなのっ !?」
「え……」
 誰だ、バラしたのは……
 露見すれば騒ぎになるのは明らかだというのに。 面倒なことをしてくれたものだ。
「ねえねえ、どんな子 !?」
「千秋さまが選んだ子ですもの、超美人ですらっと背が高くて、ナイスバディに決まってるじゃない」
「そんなの見てみなきゃわかんないわよ」
「ねえ芹沢くん、写真とかないの?」
「そういえば、コンクール優勝チームの人なんでしょ?」
「うわ〜、ソロ部門1位とアンサンブル部門1位のカップルかぁ……素敵よね〜!」
 ……聞きたかったら本人に直接聞けばいいだろ。 ノロケ話なら嫌になるほど聞かせてくれるさ。
 そう思ってふと気づいた。
 噂の出所は、顔を緩ませ彼女自慢をしまくったのであろう当の本人に違いない、と。

(会えない淋しさを自慢で紛らせてるのさ)

*  *  *  *  *

 【遠距離恋愛】
 今日もまた、薄い壁を通して隣の部屋のひとりごとが聞こえてくる。
 否、ひとりごとではない。
 彼女の手には、しっかりと携帯電話が握られているはずだから。
 コロコロと笑う弾むような声。
 涙で湿った淋しげな声。
 爆発したかのような激しい怒鳴り声。
 百面相する彼女の愛らしい顔が見られずもどかしい思いをしているであろう男の顔を思い浮かべれば、思わず笑いがこみ上げてくる。
 さあ、明日は休日だ。
 オシャレをして嬉しそうに駅に向かって駆けていく彼女の姿が、明日もまた見られることだろう。

(生温かく見守っている盟友)

*  *  *  *  *

 【おくりもの】
「── 小日向、また君に贈り物だ」
 玄関で受け取った宅配の小包を部屋に届けると、彼女はぱあっと顔を輝かせた。
 嬉しそうに包装を解いていく。
 中から出てきたのはふっくらと大粒のつやつやとした栗。
 同封されていた手紙に目を通した彼女は、
「わぁ……『丹波栗』だって!  どうしよう、マロングラッセ?  甘露煮もいいよね。  あ、渋皮煮に挑戦してみようかな♪」
 嬉々としている彼女には悪いが、これはいかがなものだろうか?
 食材を送りつけてきては、調理したものを送り返させているあの男。
 衛生面が心配になってくるが、その辺りは抜かりがなかった。
 夏が終わり、地元に戻ったあの男が最初に送ってきたのは『長期保存にオススメ!』が謳い文句の家庭用真空パック機だったのである。
「まったく……わがままな男だな」
 送られてきたばかりの栗を大事そうに抱えて台所に向かう彼女はとても楽しそうなので、余計な心配はすまいと心に決めた。

(「だって食べたいんだもん」byちあき)

【プチあとがき】
 性懲りもなく始めてしまいました。
 アシュ千もまだ完遂してないのに……
 連打してくださった方へ、感謝と愛を込めて。

【2010/04/17 up/2010/04/20 拍手お礼より移動】