■しぃずんず・ぷち♪【8.贈り物】
※しぃずんず・ぷち♪【7】後日談
「── それは迷惑かけたなぁ」
炊飯器の蓋をカチリと閉めた土岐が、ご飯をよそった茶碗を二つテーブルへと運ぶ。
「まったく、大迷惑だぜ」
今や『電子レンジマスター』の名をほしいままにする東金が、ピーッと高らかに声を上げたレンジの扉をガコンと開けた。
土岐の言う『迷惑』というのは、彼がうっかりこの部屋に落としていった髪ゴムを、かなでが女の物だと誤解したことである。
「しっかり名前書いとけよ」
「あんな細いもん、無理やて」
先に席に着いた土岐の前に東金が皿を置く。
全く同じものがほぼ同時にもうひとつ置かれた。
「……あれ?」
思わず声を上げた土岐。
目の前でほかほかと湯気を上げるハンバーグ、温野菜添え。
2つの皿に綺麗に盛り付けられている。
これまでは1日置きに東金のために作り置きされたおかず目当てに米持参でやって来ていたのだが。
疲れたように東金が溜息を吐く。
「かなでが二人分作ってくれたんだよ」
「そ、そうなん?」
落ちていた髪ゴムの説明をした時に、せっかく彼氏のために作った料理を半分奪われていることを彼女が知ったからなのだろう。
「……そりゃ悪いことしたなぁ」
「まあいいさ。あいつも楽しんでるみたいだしな」
東金が、ふ、と口元に笑みを浮かべる。
それから、ああそうだ、と席を立ち、リビングの方へ向かった。
戻ってきた東金が、土岐の目の前に小さな紙袋をぽんと放った。
「うちで髪を結ぶ時はこれを使え、だそうだ」
紙袋をそっと開けてみると、中から出てきたのは淡いスミレ色の上品な和柄のシュシュ。
やきもちを焼いた彼女の苦肉の策に違いない。
「ふふっ、ありがたく使わせてもらうわ」
食事をするのに邪魔にならないよう、土岐は貰ったばかりのシュシュで長い髪を纏めた。
後日、シュシュをよく見ると『ときほうせい』とひらがなで名前が刺繍されているのに気づいて、土岐は思わずくすりと笑みを漏らしたのだった。
〜おしまい〜
【プチあとがき】
男ふたりでほのぼの(笑)
【2010/09/14 up/2010/09/20 拍手お礼より移動】