■かれかの☆いんたぁみっしょん【7:ファンクラブ・その後】 東金

※「彼と彼女と彼のツレ【25(最終話)】」の後


 星奏学院には、過去にいくつか『ファンクラブ』というものが存在していたらしい。
 数年前には超セレブな男子生徒を崇める女子生徒の集団や、普通科から彗星のように現れた女子ヴァイオリニストを応援する男子生徒の集団があったそうだ。
 この夏は、コンクール出場のために西からやって来たヴァイオリニスト2人の虜となった女子で街ぐるみのファンクラブが設立され、彼らに熱狂的な声援を送ることとなった。
 さらにある出来事をきっかけに、ある純真無垢で愛らしい容貌の少女に注目が集まり、彼女を西の悪魔の毒牙から守るべく立ち上がった男たちがいた。 夏の初めから街角で演奏する姿をよく見かけるようになった彼女をずっと好意的に見ていたこともあって、男たちはあっという間に集団化してしまったのだ。
 そして嫉妬心をメラメラと燃え上がらせた2つの集団は互いに牽制し合い、一触即発の緊張状態に置かれていた。

 夏が過ぎたある日、『神南の王子様ファンクラブ』のメンバー数人がとある喫茶店でお茶を楽しんでいた。
「あー、今頃千秋クンたち、どうしてるのかなぁ」
「ああん、また横浜に来てライブしてくれないかしら」
「それにしてもあの子、ムカつくわよね」
「ほんとほんと、私たちの千秋クンの唇を奪うなんて!」
 実際は『あの子』の唇を『千秋クン』が奪ったのだが、彼女たちにはそうは見えていないらしい。
「……でもさ」
 アイスティーのストローをくるくる回しながら、ひとりがぽつりと呟いた。
「この前、遊びに来てたいとこを新幹線のホームまで送りに行ったら、千秋クンたちを見かけたんだよね」
「えーっ、生千秋クン見れたの !?」
「ちょうど新幹線に乗り込むとこでさ。 せめて窓越しにでも、と思って探したんだ」
「わーっ、いいなぁ!」
「で、千秋クンたちが席に座るのが見えて、手を振りに行こうと思ったら、あの子がすごい勢いで駆け込んできて」
「えーっ !?」
「気付いた千秋クンがバッと窓に張り付いて……あんな悲痛な顔の千秋クン、初めて見た」
「うわー……モロに『別れのワンシーン』だね」
「それからすぐに新幹線が動き出して、あの子も追いかけていくんだけど……ホームの端っこで崩れ落ちるみたいに座り込んで、ずっと泣いてた」
「………」
「なんかね、映画見てるみたいだった。 切なくて、胸が締め付けられて……大丈夫?って声かけてあげたくなった」
 はぁ、とその場にいた全員から溜息が漏れた。
 おそらく、『あの子』と自分との立場を入れ替え、想像を膨らませたのだろう。 恋人との別れは悲しいものだ、と。
 しんみりとした空気の中、グラスの中の氷がからんと音を立てた。

 そんな会話があった数日後、それぞれのファンクラブの代表者による話し合いが行われた。
 そして女性側からの事情説明と提案により2つのファンクラブは合併することになり、その名を『東金千秋と小日向かなでの遠距離恋愛をそっと見守る会』に変更したという。

〜おしまい〜

【プチあとがき】
 そうだったらいいのにな的フォロー話。

【2010/05/13 up/2010/05/21 拍手お礼より移動】