■かれかの☆いんたぁみっしょん【2:マイラバー】
※「彼と彼女と彼のツレ【8】」以降
夕食前のひとときを寮のラウンジで過ごしていた水嶋新は、玄関で物音が聞こえたような気がして耳をそばだてた。
「ただいま〜」
聞こえてきたのは想い人の愛らしい声。
ぴょんと椅子から飛び起きた新は、まるで飼い主を出迎える人懐こい大型犬のように玄関へとダッシュする。
「かっなでちゃ〜ん! おかえり、マイラバー!」
ちっちゃな身体にガバッと抱きついて、頭にすりすりと頬ずり。
ふわりと鼻をくすぐるシトラスの爽やかな香りを胸一杯に堪能して。
「う〜ん、いい匂い── でっ!」
ガンッと額に衝撃。
弾き飛ばされた頭を追って、身体が勢いよく後ろへ反り返る。
「ひっどーいっ、何するんですか〜!」
ズーンと痛む額を撫でながら、恨みがましい視線を送る相手は東金千秋。
ついさっきまで新の腕の中にあった小さな身体は、今は東金の腕の中にすっぽりと収まっていた。
「ふんっ、天誅を下したまでさ」
怒りマークの幻影が見えるこめかみをヒクヒクさせて、東金が睨んでくる。
が、そんなことで怯むような神経を新は持ち合わせていなかった。
「だからってパーでどつかなくても……火積先輩はグーで殴るし……暴力反対!」
額を押さえる新は涙目で訴える。
痛いはずである。
東金は少し重心を落としたポジションからの伸び上がりざま、新の額に掌底突きを叩き込んだのだから。
新も『パーで』と言っているところをみると、東金の動きは見えていたのだろう。
残念ながら、素早い動きに反応できなかったらしい。
「痛い目に遭いたくなければ、余計な真似はしないほうがいいぜ?
なんたってこいつは『お前の』じゃなく、『俺の』マイラバーなんだからな」
「えーーーーーっ !? マジでーーーっ !?」
一声叫んで、ガクンと項垂れる新。
はっはっは、と悪役のような高笑いをする東金の肩を、後ろにいた土岐がそっと叩いた。
「……千秋、そろそろ小日向ちゃん放してやったほうがええで?」
気がつけば、彼女の後ろ頭を掴んで強く胸に押し当てていた東金。
手を放すと彼女の頭は首の据わっていない赤ん坊のようにカクンと後ろに倒れ、見えた顔は真っ赤に染まって失神寸前になっていた。
「わーっ! 小日向、しっかりしろっ!」
ずるりと滑って崩れ落ちそうになる彼女の身体を慌てて受け止める。
「……誰にも渡しとうないからって、殺したらあかんで?」
慌てる東金を眺めながら、土岐が呆れたような笑いを浮かべて呟いた。
〜おしまい〜
【プチあとがき】
東金さん、独占欲強すぎ(笑)
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