■Jealousy【04】
「うわっ、びっくりした。ちゃんと聞くから、最後まで話して」
香穂ちゃんは、再び前に向き直り、俯いてポツリと語り始めた。
「…菜美…っていうか、報道部の企画で『コンクール優勝者と記念撮影』っていうのがあるらしくて…
いつの間にか募集かけちゃって、結構な数の応募があったらしくて…それも男の子が多いらしくて…
他に時間取れないから、自由行動の日にっていう話になってて…
あ、でも、わたし断ったんですよ! わたしなんてそんなたいした人間じゃないって。
…でも、断りきれなくて…先輩がいい気持ちしないと思うと、言い出せなくて…」
香穂ちゃんの声は、どんどん小さくなっていく。
─── ぷっ。
俺は思わず吹き出した。やっぱり香穂ちゃんって、可愛い。
「あははっ、そんなこと、俺が気にするわけないじゃない。あ、でも全然気にしないってわけじゃないけどね」
そして、俺は両腕で香穂ちゃんをふんわりと包み込む。
「せんぱ…」
「ごめん、俺、やっぱまだまだ子供だよな。勝手に勘違いして…その、やきもち焼いちゃって。
次からは、ちゃんと話すから。何でも全部ね。もうひとりでウジウジ考えない。
で、ちゃんと堂々とやきもち焼くから」
「先輩…」
香穂ちゃんは、ちょうど顔の前になっている俺の腕を、両手できゅっと掴む。
「俺、やっぱり香穂ちゃんしか見えてないみたい」
耳元で呟いた俺の声に、香穂ちゃんは掴んだ俺の腕に顔を埋め、少ししか見えない頬がほんのりと赤く染まっていく。
そのしぐさがあまりに愛しくて、俺は香穂ちゃんを包む腕に少し力を込める。
「── わたしも」
「えっ、何か言った?」
ごめんね、香穂ちゃん。本当はちゃんと聞こえていたけど、あんまり香穂ちゃんが可愛いから、ちょっと意地悪してみたくなっちゃったんだ。
「──なんでもない、です…」
「えぇ〜、だって聞こえなかったんだもん。ちゃんと話してよ」
「あぅぅ、先輩のいぢわるぅ…」
上目遣いで軽く俺を睨んでいる香穂ちゃんの額に、そっと唇を寄せた。
「じゃ、気を付けて行って来てね」
「はい、行ってきます。 ─── あ、先輩」
香穂ちゃんを家まで送り届け、帰ろうとした俺を香穂ちゃんが呼び止めた。
「わたしも………わたしも先輩しか見てませんから」
そう言うと、香穂ちゃんはえへへと照れ笑いして、玄関の中に姿を消した。
俺は── もちろん、帰る道すがら、顔が緩みっぱなしだった。
* * * * *
【後日談1】
「そういえばさぁ、あの日、ものすごく楽しそうに笑ってたのって、何だった?」
「ああ、あれは──
金澤先生が森の広場で、ネコ相手にものすごく深刻そうに何か語ってるのを、土浦くんが見たらしくて」
「ネコ?」
「はい。『なあ、ウメさんよぉ〜』とか。土浦くんが金澤先生のモノマネで話すもんだから、おかしくて」
「あははっ、金やん、そんなことしてんの?」
ちょっと待て。俺は金やんに相談し、金やんはネコのウメさんに相談する……
俺って、ネコ以下!?
あぁ、これは香穂ちゃんには話せないかもっ!?
【後日談2】
「おーい、長柄ぁー」
「おう、火原、復活したみたいだな」
「えっ、俺はいつでも元気だよ」
「ウソつけ。ムチャクチャ落ち込んでたクセに」
「そんなことないよ。あ、そうそう、前に言ってた『痛い目』って何だった?」
「あーあーあー、あれね。お前、見たか? 修学旅行の『香穂ちゃんファンクラブ記念写真』」
「へ? 『コンクール優勝者と記念写真』じゃなかったの?」
「いや、まあ、そうとも言わんこともないけど」
「見たけど、別にたいしたことじゃないじゃん」
「あれ? やきもちとか焼かない?」
「あ、もしかして……お前が首謀者かっ!?」
「うわぁ、悪い悪い、お前が最近あんまりつきあい悪いからさ。ちょっと天羽にな」
「へぇ、俺にやきもち焼かすために、天羽ちゃんに頼んだ、と?」
「ま、まあな。って、その前になんか自爆してたもんな、お前」
「お前なぁ──」
「うわっ、く、苦しいっ。勘弁してくれぇ。あ、天羽ーっ、助けてくれよぉ!」
「あ、長柄先輩、何じゃれあってるんです? あ、もしかして火原先輩にバレちゃったとか?」
「もう、天羽ちゃんも、ひどいよ。長柄にそそのかされて、変な企画立てちゃってさ」
「申し訳ないっ! でも、お陰で写真の売り上げがすごくて、感謝してますよ」
「はぁー、天羽ちゃん、商売人だよね」
「けほっけほっ、とにかく、火原、たまには俺たちにも付き合えよ。日野ちゃんばっかじゃなくてさ」
「ごめんごめん、そのうちにな」
俺のチョークスリーパーを逃れた長柄が、首をさすりながら去っていく。
「そうだ、火原先輩、お詫びにいいものあげましょうか?」
「ん? いいものって?」
「スクープ写真♥ じゃーん!」
「も、もしかしてっ!?」
「夜中に香穂の部屋に忍び込んで…撮っちゃいました」
それはまさしく香穂ちゃんの── 寝顔!
「天羽ちゃん、ありがと! 大切にするねっ!」
勝ち誇った顔でひらひらと手を振って俺を送る天羽ちゃんを残して、俺はエントランスを後にした。
やっぱ天羽ちゃんには勝てないかも。
〜おしまい〜
【プチあとがき】
すんませんっ! 初コルダがこんなぐだぐだでっ! 無駄に長いしっ!
書き始めたことには、こんな話になる予定じゃなかったはずなんですが…。
行き当たりばったりで書かずに、ちゃんとプロット立てなきゃダメですね。
読んでいただいた皆様、感謝です♪
【04/10/15 up】