■そ ら
「ねぇ香穂ちゃん、もし空を飛べるとしたら、何したい?」
ある日の昼休み。
火原和樹と日野香穂子は、いつものように昼食を共にし、いつものように午後の授業までのひとときを共に過ごしていた。
付き合い始めてすぐの頃は話したいことがたくさんありすぎて、あれもこれもと喋っているうちに昼休みはあっという間に終わっていた。
しかし、最近は『言葉にしない会話』を楽しんでいる。ただ傍らに相手の存在を感じるひととき。
話すことがなくなったわけではない。寄り添って、触れ合う温もりが静かな会話になる。
今は、秋。
空は高く澄み渡り、その蒼さが目に沁みる。
屋上のベンチに並んで座り、手を伸ばせば届きそうな蒼穹を眺めながら和樹がぽつりと呟いた。
「ねぇ香穂ちゃん、もし空を飛べるとしたら、何したい?」
「えっ、空、ですか? う〜ん………、登下校が楽ですよね」
「うわ、超現実的〜。もうちょっと夢のある答え、聞かせてよ〜」
苦笑する和樹に、香穂子は頬を膨らませる。
「和樹先輩だってラッシュの電車に乗らなくて済むから楽でしょ?」
「うー、そりゃそうだけど」
困って頭をワシワシする和樹に、香穂子のふくれっ面が笑顔に変わる。
すぐに香穂子の眉間にシワが寄る。真剣に『夢のある答え』を考えているらしい。
香穂子の百面相のようにくるくると変わる表情が、和樹は大好きだった。
考え込む眉間のシワまでもが愛おしいと思えてくる。
「そうだな〜、空を飛べたら………ふわふわの雲の上でお昼寝、ってどうですか?」
香穂子の眉間からシワが消え去り、楽しそうな笑顔を和樹に向ける。
「あ、それいいかもっ」
柔らかな香穂子の笑顔を見ていると、和樹の心は大空を駆け巡るように躍った。
「和樹先輩は何したいんですか? 空飛べたら」
「おれはね───」
和樹が香穂子の耳にそっと囁くと、香穂子は顔を真っ赤に染めて俯いた。
── きみのところへ飛んでいく。どこへでも、どこからでも、ね。
〜おしまい〜
【プチあとがき】
ドラ○ンボールZを見ていて思いついたネタです(笑)
ちょうどビー○ルさんが舞空術の訓練をしているシーンを見たものですから。
いいよね、空飛べたら。うらやましいことこの上ない。
それにしても最後の火原っちの台詞、一歩間違えばストーカーですな(笑)
【2004/11/23 up】