■沈黙のアンサンブル
※初々しいキス10題 06:キス後の沈黙 (お題提供:TOYさま)
ふと目が合って、彼の手が肩にそっと置かれ、ゆっくりと顔が近づいてきて、気がつけば抱きすくめられていて。
まるでずらりと並べたティンパニをめちゃくちゃに叩いているような、心臓の音のアンサンブル。
どれがどちらの音なのか判別できないくらいに入り混じっている。
「………………おい」
胸元に押し当てた耳とぴたりと密着した身体、両方から同時に響いてくる低い声。
「な……なにっ」
まだ柔らかいものが触れている感触の残る唇を動かせば、自然と声が上ずった。
「……何かしゃべれよ」
「そ、そんなこと言われても……つ、土浦くんこそ何かしゃべってよ」
「っ…………」
また沈黙が戻ってきた。
何か話をしようにも、顔がかっかして頭がぐるぐるして、何を話せばいいのかまったく思い浮かばない。
いつもみたいに冗談を言い合うような雰囲気でもなくて。
彼の方もきっと同じ。
いわゆる『甘い言葉』なんて口にする人ではないし──
甘い言葉なんて囁かれようものなら鳥肌が立つに決まっている。
たぶん、少し身じろぎすれば腕を解いてくれるだろう。
けれどそうしないのは、今の状況がドキドキして落ち着かないけれど不思議と心地いいから。
鼓動のアンサンブルが、少しテンポアップしたような気がした。
「── あ、あの、ね」
どうにか話題を絞り出そうとしたその時、ぐいっと肩を押し戻されて、せっかく何か話そうとした努力は無駄になった。
唇の動きを封じられては、話そうにも話すことなんてできないのだから。
そしてまたぎゅっと抱きすくめられて、再び心地よい沈黙が訪れた。
〜おしまい〜
香穂子さんが乙女(笑)
土浦さんが別人(爆笑)
【2012/05/23 up】