■1月31日は……【土浦編】
【はじめに】
えー、1月31日は『愛妻の日』だそうです。
1=I(アルファベットのアイ)、3=さ、1=い、で『あいさい』。
壮大なこじつけのような気がしないでもありませんが……
いつも買い物してるスーパー内のお花屋さんでそんなポップを見つけました。
というわけで、4カップルの『愛妻の日』をお楽しみください(笑)
【土浦ご夫妻の場合】
パソコンに向かっていた梁太郎は、日本のとあるサイトのとある記載を見つけて、ふむ、と唸った。
『1月31日は愛妻の日。愛する奥様に花を贈ってみませんか?』
ようするに花屋の商売上の戦略である。
彼の『愛する奥様』は今、演奏ツアーで海外を回っている。
彼女は今やオファーの絶えない人気ヴァイオリニストの一人なのだ。
かくいう梁太郎もプロの指揮者であり、客演で招かれたイギリスからウィーンの自宅アパートに戻ったばかり。
最初から覚悟の上だったとはいえ、なかなか夫婦揃ってゆっくりと時間を過ごすことができないのはやはり寂しいものだ。
ディスプレイを睨んでいた梁太郎は、ふと口元を緩めた。
1月31日といえば、『愛する奥様』がツアーから戻ってくるちょうどその日。
「─── ケーキでも焼いてやるか」
妻の喜ぶ顔を思い浮かべ、緩む口元を隠すことなく梁太郎はケーキのレシピの載ったサイトを探し始めた。
「── あ、いい匂いがする」
帰ってくるなり鼻をひくひくさせる香穂子。
玄関先に持って帰った大荷物をどさりと置いて、匂いに引き寄せられるように部屋の中へ入っていく。
「もしかして、ケーキ焼いてる?」
「ああ、もうすぐ完成するぜ」
「やった!
お昼食べ損ねちゃったからお腹ペコペコだったんだ」
「んじゃおやつにちょうどいいな」
香穂子が置き去りにした荷物を梁太郎が部屋に運び込み、香穂子は着替えのために奥の部屋へ。
「── ねぇ、今日って何かあったっけ?」
「んあ?
……なんでだ?」
奥の部屋から聞こえてくる質問に、梁太郎は少しだけギクリとする。
こんなことをするのは自分の柄じゃないのは重々承知の上だったからだ。
「だって、私が頼んでないのに梁がケーキ焼いてるって珍しいもん」
さすが長年の付き合い、鋭いところを突いてくる。
返事に困っていると、着替え終えた香穂子が戻ってきた。
「ねぇねぇ、何の日?」
「う……今日はな……あ、『愛妻の日』なんだと」
なんとなく気恥ずかしくて、少し逸らした顔を指先でぽりぽりと掻きながら答える。
「へ?」
一瞬きょとんとした香穂子が、へにゃっと相好を崩した。
だっと駆け出したかと思ったら、勢いよく胸に飛び込んでくる。
「……私って愛されてるね」
「あ……当たり前だろうが」
抱きついてすりすりと猫みたいに懐いてくる香穂子を抱き締め返しながら、梁太郎は自分の思い付きがことのほか大成功を収めたことに満足しつつ、
生地が焼ける香ばしい匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。
〜おしまい〜
【プチあとがき】
土浦編でございます。
うぃーんシリーズの延長ですかね。
結局土浦さんは結婚後も食い物で香穂子さんを釣っているイメージが(笑)
【2011/01/22 up】