■土日で五十音【さ行/た行】 土浦

 ★このページは【さ行】【た行】です。

 【寂しさを紛らわす】
 殺人的に多忙なはずの親友から、放課後の寄り道に誘われた。
 二つ返事でOKし、向かったのは駅前にあるスイーツバイキング。
 押し潰されそうなプレッシャーの中、食欲があるのはいいことだけど。
 けれど変なテンションのはしゃぎっぷりと、ふとした合間の溜息に、この私が気づいてないと思ってる?
 寂しい時は寂しいって言わなきゃダメなんだよ。
 ……ほんとにけなげなんだから。
 それにしてもあの朴念仁── 明日必ずシメてやるっ!

(親友ってありがたい)

 【『幸せ』について考えてみる】
「そうね、高級フレンチのフルコースとか」
「あー、悪くないな」
「ファミレス全メニュー制覇とか」
「お前、テレビの見すぎだろ」
「ケーキをホールで丸ごと食べるとか」
「……まだ食うのかよ。ていうか、だんだんスケールが小さくなってないか?」
「そう? じゃあね……『大きなホールでコンサート』!」
「いいな、それ。緊張もするが、やりがいもある」
「あ、でも──」
「なんだ、まだあるのか?」
「うん─── 私は梁とずっと一緒にいられたら、それだけで幸せ、かな」
 ゴフッと咳き込み、あさっての方へ視線を彷徨わせながら、おう、と小さな返事が返ってきた。
 思わず吹き出して、彼の腕に自分の腕を絡めて。
 ぶら下がるようにして見上げた彼の横顔は、耳や首筋までもが真っ赤に染まっていた。

(そういう話を振ったのは自分のくせに(笑))

 【清々しい】
「俺と付き合ってくださいっ!」
 膝に額が付きそうなほどに頭を下げる。
「ごめんなさい」
 ほぼ間髪入れずに返ってきた答え。
 あーやっぱり、とは思ったけれど。
 このまま地面に崩れ落ちそうになる身体をゆっくりと起こしながら、
「あの……土浦先輩と付き合ってるって噂、やっぱ本当なんっすか…?」
 一瞬驚いたように目を見開いた後、ふにゃりと相好が崩れた。
 そのはにかんだ笑みがあまりに幸せそうだったから、清々しい気持ちで諦められるような気がした。

(勇気ある1年生の玉砕)

 【責任を取る】
「信じられないっ!」
「……わかった、俺が責任取る」
 そんな会話があったのは、昨日の帰りに寄った喫茶店でのこと。
 『ひと口食べる?』と出されたケーキを『ひと口』食べたのだが。
 同じ『ひと口』でも、自分と彼女の解釈は全く異なっていたようで。
 あと1時間ほどでやってくる彼女のためにケーキを焼く、そんな土曜日の昼下がり。

(食い気香穂子に尽くす土浦氏)

 【空を見上げる】
 太陽の光をいっぱいに吸い込んだふかふかの芝生の上に並んで寝転んで、空を見上げていたら──
 うっかり眠ってしまっていた。
 溜息混じりに見上げた空は星が瞬いている。
「なんでお前まで一緒になって寝てんだよ」
 自分が先に寝入ったくせに、言いがかりもいいところ。
「あ、あはは……ごめんごめん」
 理不尽な言葉にも申し訳なさそうに頬を掻く彼女。申し訳ないのはこっちのほうだ。
「と、とにかく帰ろうぜ」
「そ、そうだね」
 冬の戸外で昼寝だなんて……風邪を引かなくてよかった。
 少しの安堵と大きな気まずさを持て余しながら、家路を急いだ。

(休日イベントより)

 【立ち向かう】
 横暴とも言える理不尽な命令に、俯いて肩を震わせていた彼女。
 ふっ、と小さな息を漏らし、
「…………やってやろうじゃないの── コンサートだろうが、コンミスだろうがっ!」
 胸元でギュッと拳を握り、ギラギラと目を輝かせ。
 背後にメラメラと燃え上がる炎が見えた気がして、なんとなく『悪に立ち向かうヒーロー物の主人公』を連想させて、思わず吹き出してしまった。

(戦う女・日野香穂子(笑))

 【力を合わせる】
「── 今の、いいんじゃないか?」
「うん、入りの音もばっちし合ってたしね」
 見合わせた互いの顔は満足感で笑みになる。
 こいつと力を合わせて1つの曲を作り上げていくのは、本当に楽しい。
 たぶんこいつも同じ気持ちだろう、と根拠もなく確信して、なんだか嬉しくなった。

(デュオ練習中)

 【つきあう】
 クリスマスコンサートへ向けた練習を終えて。
「なあ日野、今日の帰り、時間あるか?」
「うん、大丈夫だけど」
「そうか。じゃあ、ちょっとつきあえよ」
「え……」
 ぼぼぼっ、と火がついたように赤くなる香穂子の顔。
「あ、い、いや、変な意味じゃなくてさ。これから図書館に寄ろうと思うんだが、こないだお前、読みかけで帰っただろ? 続きが気になるだろうと思ってさ」
「あ……うん、そ、そうだね、一緒に行くよ」
 お互いに相手を憎からず思っていることは薄々気づいている。
 だから『つきあう』という言葉に敏感になっているのかもしれないと思った。

(おつきあい一歩手前)

 【手をつなぐ】
 このほっそりした柔らかな手から。
 このがっちりした力強い手から。

 ── 惹かれてやまない音が生み出されるから。
 いや、それだけじゃなくて。

 これが彼女の手だから。
 これが彼の手だから。

 ── このままずっと放したくない。

(だからきゅっと力を込めた)

 【通り雨】
 いきなり大粒の雨に降られて、慌てて飛び込んだ軒下。
 ハンカチで雫を拭き取りながら、ふと隣を見下ろした。
 ぐっしょり濡れてしまった髪を拭いてやろうと手を伸ばしたその時、濡れて束になった彼女の前髪から雫がぽたりと落ちた。
 目元に落ちた雫は重力に逆らいきれず、彼女の柔らかい頬に筋を描きながら流れ落ちていく。
 まるで自分が泣かせてしまったように思えて、ズキリと胸が痛くなった。

(放置前の予感?)