■Nourishment 土浦

【いろいろとお騒がせしました『禊』リクエスト大会】
ぽにょさま からのリクエスト/砂吐き土日実況(うぃーんシリーズ設定)

「── よく飽きないわねぇ……」
「なーに、ジニー?」
 隣を歩くカホコがきょとんとした顔で小首を傾げるのを見て、あたしは深い溜息を吐いた。
「家でも一緒、学校でも一緒── いい加減、うんざりしない?」
 ようやくあたしの言葉の意味を理解したカホコはへにゃりと笑って、しないよ、と即答する。
 あーそうですか、とばかりにあたしの口からはまたも零れる溜息。
 どうしてあたしがこんな意地悪なことを言ってるかと言うと、たった今目の前で見せ付けられたからに他ならないからだ。

 午前中の授業が終わって向かった学内のカフェ。
 入り口のところでルークとリョウにばったり出くわして、一緒にランチすることになったのよ。
 そりゃ、ルークは一応あたしのカレシだし、リョウとカホコは一緒に暮らしてるようなステディな間柄だし……
 まあ、当然の流れよね。
 最初は4人でわいわいしゃべってたんだけど、食べ終える頃には隣の席に座るパートナーとの会話が増えてきて。
「── きゃうっ!?」
 突然上がった妙な奇声に驚いて、何事かと目をやると──
 カホコの頭を抱え込み、彼女の顎の辺りを掴んでガクガク揺らしてるリョウ。
「今の、もう一回言ってみろ!」
「わーっ、うそうそ、冗談だってば!」
 あたしは浮かしてた腰をドスンと下ろして、溜息を吐いた。
 もちろんケンカなら止めるわよ。
 日本語(たぶん)でしゃべってるから内容まではわからないけど、リョウの手にたいして力が入ってないのも一目でわかったし、 カホコも逃げようと思えば逃げられるくせにあえてそのままにしてるんだもん。
 要するに、じゃれあってるってことよ。
 実際ふたりとも楽しそうに笑ってるし。
 すっかり見慣れた光景だけど、ちょっぴり意地悪な気分になったあたしは席を立ち、
「さ、そろそろ午後の授業行くわよ」
 テーブルを回り込んでカホコの腕を掴んで引っ張った。
 案の定、カホコの身体はほとんど抵抗なくリョウから離れ、持ち上がった。
「えー、まだ時間あるけど?」
「準備とかいろいろあるでしょ── じゃあね、お二人さん」
 ポカンとしてる男ふたりにひらりと手を振って、少々不満そうなカホコの手を引っ張りカフェを出た。

 そして冒頭に戻るわけ。
 くすくすと笑い始めたカホコは、
「たぶんね、一生飽きないと思うよ」
「うわ……言ってくれるわね」
 あたしの呆れ顔に、カホコはますます笑みを深くする。
「そりゃあケンカだってするし、いつも笑っていられるわけじゃないけど……食事と同じだと思うのよね」
「……は?」
 この子はまた訳のわからないことを……
「だって、生き物は何か食べないと生きていけないでしょ? それと同じだよ。梁と過ごす毎日が、私の栄養になってるの。だから──」
 言葉を切ったカホコは空を見上げて眩しい日差しを手で遮りながら、それでも眩しそうに目を細め、
「── だから今、私はここにいられるんだよ」
 あたしには空で輝く太陽よりも、しみじみと呟きながら幸せそうに笑っているカホコの横顔のほうがやけに眩しく見えて、思わずすっと視線を逸らした。
 それはたぶん、カホコのことが羨ましいと思ってしまったから。
 ……あー、あたしってばなんかヤな女だ。
 気分を切り替えるために小さく頭を振って、わざとらしい咳払いをひとつ。
 カホコの腕に自分の腕を絡ませて、強引に引きずるようにして足を速めた。
「ちょっ、ジ、ジニーっ !?」
「……あんたの栄養、あたしにも少し分けなさいよ」
「ぅええええっ !?」
 ちらりと見ると、目を真ん丸にして蒼褪めているカホコ。
 あたしは思わず吹き出した。
「やーね、『リョウを貸せ』なんて言わないってば。食事よ、食事。リョウの作ったディナーにあたしを招待しなさい!」

 ── なんて、言わなきゃよかった。
 結局数日後、あたしとルークは夕食に招待されたわけだけど。
 ふたりで仲良く食事の準備をする姿は、まさに絵に描いた新婚カップル。
 と言っても、料理をするのはリョウで、彼の指示で食器の準備をしたりするのがカホコだから、普通とはまるっきり逆よね。
 並んでキッチンに立ちながら、時々肘でつついたり。たまに足が出たり。
 招待した人間の存在を完全に忘れてるんじゃないの?
 毎日こんな調子なのかしら? ……ほんとよく飽きないわよね。
 あたしはソファにずっしりと身体を沈めつつ、こっそり溜息を吐きながら隣を見た。
 うわ……
 ぽわ〜んとした緩みまくった顔でキッチンのふたりを眺めているルーク。
 何考えてんだか、聞かなくっても手に取るようにわかっちゃうわね。
 ふぅ……
「── できたぞ。自分で食う分くらい、自分で運べよ」
 あら、あたしたちのこと忘れてなかったのね。

 夜も更けて、あたしたちは彼らのアパートを後にした。
 それにしても、なんか悔しいわよね。
 何が、って? そりゃ、リョウの料理の腕に決まってるでしょ。
 たいして凝った料理ってわけじゃなかったけど、レストランでお金払って食べるのが馬鹿馬鹿しくなるくらいのおいしさ!
 毎日あんなおいしい料理を食べさせてもらってたら、そりゃ『栄養』にもなるわよね。
 リョウにしても、彼女のために腕を振るうのが嬉しくてしょうがないって感じだし。
「── なあ、ジニー」
 駅が見えてきた頃、ルークが口を開いた。
 繋いでいた手を、きゅっと強く握られて。
 頑張って笑ってるつもりらしいけど、緊張で顔が引きつってる。
 ほんとにもう、何考えてるのかが全部顔に出ちゃうのね。
 あたしは彼の手からすっと手を抜くと、駅へ向かって歩き出した。
「── 考えとくわ」
 ま、あたしだって料理するのは嫌いじゃないし?
 振り返らずにひらひらと手を振って。
 後ろから、おう!、と嬉しそうな声が聞こえた。
 どんな顔してるのか見てやりたかったけど、振り返ることができなくて。
 だって、あたしの顔も相当ニヤけてる自信があるもの。
 人を羨んだりしなくても、あたしは栄養満点な毎日をもう送ってるんじゃないかしら、なんて思いながら、羽根が生えたみたいな軽い足取りで地下鉄に乗り込んだ。

〜おしまい〜

【プチあとがき】
 うぃーんシリーズ設定、ヴァージニア嬢視点でございます。
 ジニーとルークはまだ清らかな(笑)関係ってことで。
 うぅ、あんまり砂吐ききれてないし、大して実況もしてないぞ(汗)
 同じような展開の話を見つけても、目を瞑ってスルーしてください(笑)
 ぽにょさま、リクエストありがとうございました。
 大変お待たせして申し訳ありません。

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【2009/07/27 up】