■運命のいたずら
待ちに待った昼休み。
今日も昼サッカーに興じようと5分で弁当をかき込み、コートへ向かう抜け道である森の広場を走っていた梁太郎は、見慣れた後ろ姿が石のベンチにぽつんと見えて、思わず足を止めた。
同じベンチには手付かずのサンドイッチの包みと紙パックのカフェオレが見える。
「── よう、一人で昼メシか?」
驚かせようなんて意図はなかったから、特に足音を消すこともなく近づいて声をかけた。
すると、少し丸めた背中がふるっと震え、ゆっくりと振り返り──
「お、おいっ !? どうした !?」
慌てて駆け寄る梁太郎。
振り返った香穂子は梁太郎の顔を見るなり、大きなふたつの瞳をみるみる潤ませたのである。
梁太郎は彼女の隣に腰を下ろし、そっと細い肩を掴むと、俯いてしまった彼女の顔を覗き込んだ。
辛そうに顔を歪ませた香穂子。
一体何が彼女をこんなにも苦しめているのか。
『相談に乗るぜ』なんて軽々しく口にできないほど打ちひしがれた彼女の様子に、梁太郎の胸はきりきりと痛んだ。
香穂子は目元をほっそりとした指先ですっと拭い、ほぅ、と肩で溜息を吐く。
それから天を仰ぐように顔を上げ、細く長い息を吐いて、
「………運命って、残酷よね」
と、ぽつりと呟いた。
「な……」
あまりの深刻さに言葉を失ってしまう。
そんな彼の顔を香穂子はじっと見つめ、
「私は梁と──」
呟きかけた言葉を飲み込んで、再び俯き小さく頭を振る。
「……離れ離れになっていた幼馴染とね、再会したの」
梁太郎と香穂子は同じ小学校出身。確かに幼い頃に接点がある。この学院で知り合ったことは『再会』と言えなくもないが、当時『幼馴染』と言えるほど馴染んではいない。
とすると、別の人間の話だろうか?
「信頼してたのに……ずっと好きだったのに……」
小さな呟きは、梁太郎の胸を抉る。
彼女にはそんな相手がいたのか── 絶望という凶器で頭を殴りつけられたような気分だった。
「再会してみたら敵同士だったなんて……」
── 敵?
家同士で反目し合っているということだろうか?
まあ、現在でも某先輩のような家ならそういうこともなくはないのだろうが。
しかし彼女の家はごく平凡な家庭だ。
「私は……梁と戦えるのかな…」
香穂子はずずっと鼻をすする。
「……ちょっと待て」
思わず梁太郎の口から零れた低い声に、え?、と香穂子は不思議そうに小首を傾げた。
「お前……さっきから何の話をしてるんだ?」
「え……ゲームの話だけど?」
さっきまでの深刻さはどこへやら、しれっとした顔で言う香穂子。
「高校生の女の子が時空を越えて源平の合戦に巻き込まれるんだけどね、時空の狭間ではぐれちゃった幼馴染と再会したら、なんと敵同士だったの!
まさに運命のいたずら! 戦場で剣を交える二人がそりゃあもう切なくて切なくて。私だったら梁と戦うなんて無理無理!
でもねでもね、エンディングの後の南の島では超ラブラブでよかったよかった── って、梁?」
嬉々としてゲームを語る香穂子に脱力し、頭を抱える梁太郎。
この日、彼は昼サッカーに向かう気力も体力も失って、無駄な昼休みを過ごした── らしい。
〜おしまい〜
【プチあとがき】
ゲーマー香穂子シリーズ(いつシリーズ化したんだ?)
いやあ、将臣恋愛ED後のおまけにやられちゃいまして。
ちゅーしたよ、将臣がちゅーしたよっ!
まるっきり二次創作のような話を公式でやっちゃいましたよっ!
そこを将望で書かずに土日に持ってくるのはヘンですか?(笑)
【2009/03/27 up】