■Trick or Treat!【土浦×日野Ver.】 土浦

 秋も深まりつつある日のこと。
 昼休み、土浦が購買へ向かっていると、
「土浦くーん!」
「よう、日野」
 彼を呼び止めたのは日野香穂子。
 にまにました顔でぱたぱた駆け寄ってくると、
「土浦くん、『Trick or Treat!』」
「……は?」
「だーかーらー、『Trick or Treat!』」
「……まさか『欧米かっ!』ってツッコんでほしいとか言わないよな? 古いぞ、それ」
「違うわよ、ハロウィンに決まってるでしょっ!」
「いや、ハロウィンくらい知ってるって。お前、俺が菓子を常備してると思ってんのか? ……火原先輩じゃあるまいし」
「おおっ!」
 香穂子は、ぽん、と手を叩くと、くるりと踵を返す。
 土浦はすかさず香穂子の襟首をむんずと掴み、
「わー待てっ! どこ行くつもりだっ!」
「どこって、火原先輩のとこ。誰かさん、お菓子くれないし」
 じっとりと恨みがましい目でちろりと睨む香穂子。
「うっ……んじゃ、放課後どっか寄って何か食って帰るか…? ケーキくらいならおごってやるよ」
 喫茶店のケーキセット、2人分ともなれば財布に優しくないのだが。
 しかし好意を寄せる彼女と二人で過ごす時間と引き換えとあらば惜しくはない。
「えーっ」
 二つ返事で飛びついてくるかと思いきや、なぜかお気に召さなかったらしい。
「なっ、何が不満なんだよっ」
「どうせなら、料理上手の腕をふるってみませんか?」
 勧誘っぽい口調の彼女はやけにニコニコしていて。
 ようするに、市販のものではなく何か作れ、と要求しているわけである。
「お前な……人にたかっといて、んなワガママを……」
 はぁー、と大袈裟な溜息を吐きながら、ふと気付く。
 何か手作りする、となればどちらかの家に行くことになるのではないだろうか。
 店なら誰かの乱入という可能性があるが、家なら邪魔は入らないっ!
 大人の関係を期待するような下心はまだ表に出そうとは思わないが、彼女と過ごす時間を独占できるというのは実に魅力的である。
 思わず緩んでくる頬を無理矢理引き締めて、
「じゃあ……俺んちでいいか?」
「うちに来て! 前に借りたCD、返そうと思ってたからちょうどいいし♪」
 ニコニコの香穂子。
 付き合っているわけでもない男を家に上げることに抵抗はないのだろうか?
 ── ま、こいつのことだから、なーんにも考えてねぇんだろうけどな。
 思わず苦笑しつつ。
「リクエストは?」
「んー……すぐ作れて、すぐ食べられるもの、だよね……………ホットケーキとか?」
「……それくらい自分で作れるだろうが」
「えーっ、人に作ってもらうからおいしいんじゃない」
「了解了解。んじゃ、放課後な」
「うん、放課後にね」
 香穂子は嬉しそうに笑って、ひらひらと手を振って駆けていく。
「………ホットケーキか………ガキだな、あいつ」
 くくっ、と笑い、購買へ向かう。
 フルーツたっぷり盛り合わせ、とか喜ぶかな。それともシンプルにメイプルシロップとバターってのもアリだよな。
 そんなことを考えていた土浦だったが、購買のパン争奪戦に出遅れてしまったせいで昼からあんパンとジャムパンという甘いものを堪能するハメになってしまったのである。
 ──が、彼本人は至極幸せそうだったとか。

〜おしまい〜

【プチあとがき】
 コルダ2の時期、かな?
 何が何でも火原のところへ行かせたくなかった梁太郎さん(笑)

【2008/10/11 up/2008/10/28 拍手お礼より移動】